(SIDE エルシィ)消えた友人
エルシィはレイピアを握り直し、敵を突く。
「そこをどきなさいっ!」
相手の素早い動きで急所が外れるものの、剣は男の腕に付け根を貫いた。
その隙をついて、エディ・マクスウェルが動く。
「後は任せろ!」
銃弾の乾いた音と共に、男――”テミセ・ヤ”の工作員は崩れ落ち、鮮血が地面を濡らす。
その様を呼吸を整えながら確認し、エルシィは自らのレイピアを男の肉から引き抜いた。
「はぁ……、はぁ……。これで全部片付いたのかしら?」
「だな。周囲からの殺気はもう無い。こいつで最後だと考えて良さそうだ」
「良かった……。それにしても、思ったよりも手ごたえの無い方々でしたわね。この地で長期間にわたって、工作活動をしてきたのだから、相当の
「……帝都で俺を襲った奴はレベル100を超えていた。強い奴がこの場に居ないのは何でだろうな?」
エディ・マクスウェルは彼の武器である銃をホルスターにしまい、後方の岩場を仰ぎ見た。
「あそこに行こう。工作員達はあの場で騒いでいたんだ。きっと、さっきの魔法陣と関係がある場所だと思う」
「まいりましょう!」
二人で駆け出し、岩場を目指す。
これはただ事ではないと、山を登ったまでは良かったのだが、沢まで来ても、ステラ達はいなかった。代わりに”テミセ・ヤ”の工作員達が10人程いて、戦闘になったのだ。
一つ不思議だったのは彼等は慌てているようでもあり、悲壮感も漂わせていた。
もしかすると、彼等の仲間もあの大魔法に巻き込まれたのかもしれない。だからと言って、全く同情しないが……。
「あそこには、絶対に何かあるはずなのよ」
エルシィがアビリティを駆使して岩を上って行くと、エディもまた、恵まれた身体能力でヒョイヒョイとついてくる。
チラリと彼を確認してから、周囲を見回し――発見する。
大きめの岩の影に、立方体と円すい形を組み合わせたような、不格好な装置が置かれていたのだ。
「これ、怪しいですわ。先ほどの魔法と関係があると思いませんこと?」
「恐らくそうだろう。ステラさんに頼まれて、調べてたんだけど、この兵器の名前はMBF-cc3031。”テミセ・ヤ”で秘密裡に開発された、言わば秘密兵器ってやつだ」
エディ・マクスウェルは服に付いた砂埃を払いながら、こちらに近付いて来る。
「そうですのね。……ガラスの天板に描かれてある魔法陣は先ほどお空で見たモノと同じ様に見えます。だけど、残念ですわ。私には解読出来ないようです」
エルシィは深いため息をついた。
先日の古代文字のテストで、エルシィは学年トップの成績だった。
だというのに、ここに描かれている内容が分からないのはおかしいだろう。魔法学校の授業に何か問題があるに違いない。
深刻な表情をするエルシィを
「これは、邪神アンラ・マンユに創造された【アナザー・ユニバース】という魔法なんだ。”テミセ・ヤ”のコレクターが長らく秘蔵していたらしいんだけど、近年になって、同国の国家機関に寄贈したんだと。国家機関から、魔法協会に渡され、研究がおこなわれてきたんだが、そこの連中にも使いこなせているわけではないらしい」
「……どのような現象をもたらすのかについては、調べがつきましたの?」
「『物体や生物を別世界に飛ばしている』んじゃないかと言われている。だけど、飛ばされた先がどうなっているのかについては、誰も知らないようだった」
「じゃあ、やはりステラさんは……」
「こんな事、言うべきじゃないんだろうけど。生存については希望を持たない方がいい。姫様を守って死ねたんだから、マクスウェルの人間にしては、まともな死に方だと思う」
「そんな……」
エルシィは溢れて来る涙を止めることが出来ない。
あの小さくて可愛らしい少女は、この旅の最初から最後まで、自分を守る事を優先したんだろうか?
その結果、怪しげな魔法を使われ、消えてしまうだなんて……。
滲む視界の中で、淡く光る魔法陣が揺らめく。
それが憎くてたまらず、エルシィは力任せに叩いた。
「ステラさんを返しなさいっ!!」
すると、魔法陣の外周を囲む文字の色が変化し、球体が一つ放出された。
唖然としてそれを見上げれば、その中から一匹のドラゴンが飛び出した。
「なっ、何事ですの!?」
「おぉっ! ようやく解放されたか! 空気が旨い! 旨いぞ!!」
「貴方は……
「それ以外のなんだと言うのだ!!」
そのドラゴンはステラの相棒、アジ・ダハーカだった。彼も魔法に巻き込まれたとばかり思っていたのだが、これは一体どうしたことか。
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