カミナリグモ

 ステラがブラウンダイアモンドを手に取ると、インシャスとユミルが情け容赦無く襲いかかってきた。


「余計なマネさせるかよっ!!」

「ここで消えてもらいますね」


 そんな2人にステラは”初霜のリンゴ”から抽出した原液を浴びせかける。


「凍っちゃえです! 【効能倍加】!」


 アイテム+アビリティにより、男二人の足元がカチコチに凍り付く。

 先ほど、帝都からレイフィールドまでの移動時間を利用して”初霜のリンゴ”を使ってみていたのだが、別の薬品と混ぜなくてもかなりの性能になった。


 充分な効果に多少の満足感を感じるものの、これだけでは単なる足止めにしかならない。

 彼等が氷から抜け出す僅かな間に、金剛杵を何とかする必要がある。


「インドラさん! 金剛杵を元に戻すにはどうすればいいですか!?」

「外側を覆うダイアモンドをぶっ壊すんだ! 今のあんたに、それが出来るか?」

「ぶっこわすって……、あっ!」


 インドラの言葉により思い出す。

 そういえば、アレムカの家でコレを分析した際、弱点に『二段階の分解』とあった。その時は何故二段階の分解なのかと不思議に思ったのだが、今ようやく分かったかもしれない。


 おそらく一段目の分解で金剛杵本来の姿となり、二段目の分解で破壊が可能になるということなんだろう。だとすれば、一回だけ分解してしまえばいいはずだ。

 一度思い至ると、そうとしか思えなくなる。

 

「――出来ると思うです。見てて下さいです」

「信じる!」


 奇妙なくらい研ぎ澄まされた感覚の中で、体内のエーテルが両手に集まっていくのを意識する。


「お目覚めの時間なんです! 【分解】!!」


 ステラが魔法を行使すれば、術式が金剛杵を囲むように展開し、その硬い殻に働きかける。

 アスピドケロンの時のように、大量のMPを抜き取られるかと思いきや、そんなこともない。普段のアイテム作りよりも、ちょっと大変なくらいで済んでいる。


(武器からの反発がない。この武器も元の姿に戻りたかったのかも)


 そのまま魔法をかけ続けると、ダイアモンドは粉々に砕け散った。


「やったです!」

「いいぞ!」


 内部から現れた金剛杵は、ダイアモンドの内部にあった姿のまま――、というわけではなかった。遠くに浮遊していたエーテルだまりをグンと引き寄せたかと思うと、その力を吸収し、形を変えていく。


 ダンベルのような形だったのが、両端から刀身の様な物がニョキリと伸び、それを囲むように鉤爪が生える。プラズマも纏っているものだから、かなり攻撃力が高そうに見える。


 ステラはその中央部をこわごわと握った。

 腕力がないので、武器の重みに耐えられないだろうと予想していたのに、羽根の様に軽い。神器というものは何もかもが特殊なのだろうか?


 ちょっと感動していたステラだったが、ユミルから話しかけられたことで現実に引き戻された。


「――ステラ・マクスウェルさん……。貴女、その武器にエーテルだまりを吸わせていましたか?」


 金剛杵から男の顔へ視線を移してみれば、恐ろしい形相で自分を見ていた。

 そんな彼に対し、ステラは目を細めて頷く。


「そうですよ。貴方達が勝手に使っていたエーテルだまりを、元々の持ち主に返したんです。本当だったら、使っちゃった分も返さなきゃならないんですっ」

「ふふ……。そうなんですねぇ。あ~、だったら、貴女ごとそのヘンテコな武器? を壊したらいいだけですね。燃えてしまえ! 【白炎ハクエン】!!」


 男の手から放たれた白色の炎は、アジ・ダハーカが瞬時に張ったバリアにより防がれる。しかし、白い炎は上級魔法使いの証――通常の炎よりもずっと温度が高いのだ。実際、肌に感じる熱はヤバイくらいなので、いやおうなしに、自分が相対している魔法使いの実力を思い知らされる。


(この状況、長くは持たない……。ええと、この金剛杵の使い方は……)


 ステラは記憶を頼りに、金剛杵に命じる。


「たしか、【雷雲生成らいうんせいせい】が出来るんでしたよねっ!?」


 すると、神器から一筋の光が放たれ、暗い空を貫いた。

 今夜は――そしてたぶん、この一年程の間、この地に雲がかかるなんてことはなかった。だというに、上空に浮かぶ月があっと言う間に見えなくなった。

 雲に、覆われたのだ。

 そして、ゴゴゴ……と、耳をつんざく様な音がしたと思った次の瞬間には、視界が真っ白になった。


 雷以外に聞こえるのは工作員達の悲鳴。彼等だけに雷が落ちている。

 

 少し遠くにいるエマの方を慌てて確認すれば、彼女の所には落雷が無い。

 それにホッしつつ、インドラの方を向く。


「凄すぎなんです。これ、どうやったら止まるですか……?」

「どうだろうな~、久しぶりだから張り切ってるみたいだ!!」

「ひぇ」


 こちら側に雷が落ちてこないのはいいけれど、眩しいし、耳が痛い。


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