追いつかれてしまった……

 【守りの唄】を歌うエマに対し、間者インシャスとキメラの猛攻が続く。

 彼女が全員にかけてくれているバリアは消費するMP量が少ないのに強固なので、非常に頼りになる。

 しかしながら、短時間に一定回数攻撃を受けると解けてしまうという脆さもあり、スピードタイプの相手との戦闘の際はこうして歌い、頻繁に更新する必要があるのだそうだ。


 エマだけに間者達の相手を任せておけるわけもなく、ステラやアジ・ダハーカも魔法攻撃をひっきりになしに撃ち込む。

 インドラの方はというと、彼お手製のパチンコで石や鉄くずを放っているが、当然ながら大したダメージを与えられていない。


 この膠着こうちゃく状態に早くも痺れを切らしたのか、インシャスが舌打ちする。


「だりぃな! 死ねよっ、【めった刺し】!!」


 カマキリに似た構えをとったかと思ったのもつかの間、彼が握る短刀が高速でバリアを連打し始める。こうした攻撃に弱いバリアは、ギギギ……、と亀裂が入り、ステラはフォローに回ろうとする。


 しかしエマの方が早かった。

 祈るようなポーズを取れば、インシャスとキメラの動きが止まる。


(いい判断!!)


 ステラは内心エマの選択を称賛した。

 エマが今行使した【祈り】という技は対象の思考を十数秒間虚無状態にするのだ。

 だけども、これを連発すればMP的に痛いので、直ぐにでも別の手を取らなければならない。


(もう一人はどこだろ!?)


 ビーストテイマーのマイアは直接的に戦闘に加わらないでいた。

 やや離れた場所で何かの機材を操作している。

 彼女はこちらの様子を察したのか顔をあげ、【強制調教】を使用する。


「キメラちゃ~ん! インシャスをエサにして、トンガリ帽子の子を連れて来てよ~! は~や~く~」

「グルルル……」


 キメラの恐ろし気な双眸そうぼうがステラをとらえる。

 マイアが言っている”トンガリ帽子の子”は間違いなくステラのことなんだろう。

 その執着心がまるで理解出来ない。


 しかし、何故かエマはマイアの言葉に煽られていた。

 いつもは凪いでいる目が吊り上り、手の平に火球を出現させている。


「エ、エマさん!?」

「ステラ様、渡さない。……皆、燃えて灰になったらいい」


 そう言うやいなや、見事なフォームで【光焔】を投げ始める。 

 さっきまで防御を優先にしていたというのに、えらい変わりようである。


 彼女の行動の変化が全滅フラグになりそうなものだが、そうならないところが彼女の凄さだ。

 高いINTのお陰で、キメラに対してそれなりのダメージを与えている。


 【光焔】を一発食らったインシャスも虚無状態から抜け出したようで、慌てた様子で彼自身の技を使う。


「あぢぃ!! 【ポインズンミスト】!」

「そうくると思ってたです! 【効能反転】!!」


 毒の対応が大得意なステラはすぐさま対応し、無害化する。

 この間にアジ・ダハーカが新たなバリアを張ってくれたので、形勢逆転といきたかったのだが、とうとつに足元に振動が加わり、尻もちをつく。


「わわっ!?」


 お尻を抑えながらなんとか起き上がると、エマとの間に深い断裂が出来てしまっていた。これを飛び越えるのに、ステラの身体能力は全く足りていない。


「これって、一体――」

「ステラ・マクスウェルさん。約束を果たしに参りましたよ」


 聞き覚えの有りすぎる声が耳に届き、こわごわと後ろを振り返る。

 立っていたのは思った通り、ユミルだった。

 ひどく疲れた様子ではあるが、これ程の速さでステラ達に追いついて来れたのは驚異的だ。


「こ、近衛師団の人達は……?」

「弱者が何人も集まっても無意味なんですよ。この際エルシィ殿下をお土産にいただこうかと思いましたが、付き人が優秀でしたね。列車でさっさと逃げられてしまいました」

「……そうなんだ」


 近衛の人達には悪いが、エルシィが無事に逃げられたようでホッとする。


(……あとは、私達でエーテルだまりを潰せたらいいけど……、この状態で出来るのかな?)


 相当な強者が3人も集まってしまったことで、一気に風向きが悪くなった。

 内心焦りまくるステラとは違い、ユミルの方は余裕綽々だ。


「――それにしても、情けないですねぇ。貴方達2人がかりで、まだ片付けられていないとは」

「うるせぇよ! マイアが手抜きしやがったんだ!」

「手抜きなんかじゃないよ~。私も大変なの。トンガリ帽子の子を無傷で手に入れたいんだも~ん」

「何を言っているやら」


 間者たち3人が言い争う中、ステラはインドラにつつかれた。


「……うん?」

「あんた、ここからエーテルだまりが見えるか?」

「エーテル、だまり?」


 彼が指さす方を向くと、たしかに薄ぼんやりとした浮遊物が、遠くの岩陰から見え隠れしている。


「あそこにあるですかっ」

「ああ。金剛杵を手にとるんだ。あんたがこの武器に元の力を戻してやってくれ」


 いつの間にか足元にブラウンダイアモンドが転がっていた。

 アジ・ダハーカが取り出してくれていたのか、それとも自分から【無限収納】から出て来たのか……。

 それは分からない。だけども、今ここで、この武器を使うしかないだろう。


「やってみるですよっ!」


 ステラはダイアモンドの塊を掴み、立ち上がった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る