神がかる

 ステラの自動筆記帳を見た者達の反応は様々だった。

 ゴンチャロフ皇帝を始めとする帝国側の面々は無関心だったり、馬鹿にするような表情をする者が殆どで、ガーラヘル側の人々は驚いているように見える。


 各人かくじんが他者の出方を伺う中、真っ先に疑問を口にしたのはまたもやエルシィだ。


「ステラさん。一つ質問しても宜しいでしょうか?」

「うんうん! どうぞです」

「貴女がおっしゃったインドラさんなのですが、もしや昨日お会いした青髪の商人のことですの?」

「そうなんです。あの人から貰った財布を使って、居場所を捜索しました」

「思い返してみると、あじさんが神かもしれないと言ってましたものね。でも、神の捜索をそんなに簡単に出来ますの……?」

「信じられないですか?」

「いいえ! けしてそんな事はありませんわ! ただ、とても驚いてしまっただけです!!」


 不安そうにするエルシィには申し訳ないけれど、探索出来てしまったのだから、他に言いようがない。

 エルシィの言葉が終わるのを待っていたようなタイミングで、ゴンチャロフ皇帝が話し出す。


「その地図を信じるのは難しい。そなた達の話を聞くに、どうやら昨日会った商人がインドラ神ということのようだが……、何か勘違いがあるのではないか?」

「そうなのかな? うーん……」

「頼み事をしている側が嘘をつくのも良くないだろうから、真実を話すとする」

「はいっ」

「君が見抜いた通り、我が国がインドラ神を降ろすのは非常に難しい。……ここ百年程の間に一度も神を降臨させたことはないのだからね。だからこそ、断言できるのだ。君達が誰かにだまされたのだと」

「あの人に騙されてる感じはなかったです。だから、試してみようと思うです!」

「試す?」


 話し合いだけでゴンチャロフ皇帝を納得させるのは難しい。

 なので、ステラは地図の信憑性を上げる為のパフォーマンスをしてみることにした。

 アジ・ダハーカの方をチラリと見ると、彼は心得たとばかりに頷き、【無限収納】の中からブラウン・ダイアモンドを取り出す。


 大理石のテーブルに乗ったブラウン・ダイアモンド――金剛杵こんごうしょの内部は激しいプラズマがうごめき、仄暗い室内を怪しい雰囲気に変える。


 ゴンチャロフ皇帝はこのダイアモンドを見てもピンときていないようだ。


「茶色がかったガラス……か? 内部に雷属性の力が込められているように見受けられるが」

「これは、雷神インドラの神器――金剛杵です。これを見てくれたら、皆さんも本物だと分かると思うです。【ディープ・アナライズ】!!」


 ステラがブラウンダイアモンドに手をかざし、分析魔法を行使すると、帝国側からもガーラヘル王国側からも驚きの声が上がった。【ディープ・アナライズ】を使用出来る人間はそれほどに希少ということなんだろう。

 それはさておき、空中には以前と全く同じステータスが表示されている。


【名称】雷神の金剛杵

【性能】雷雲生成。不適正者に所持された場合、その者のアビリティに変異を加える。

【弱点】生産魔法――分解(2段)


「なんということだ! 千年以上も行方が分からなかった神器が、何故異国の尻尾幼女の手に渡っておる!!」

「意地悪ばあさんにはめられて、私が所有することになっちゃったんです……。はふぅ……」

「そうなのか……。それが存在するのであれば、あの伝説は本当なのだろうか?」


 酷く混乱した様子のゴンチャロフ皇帝を一瞥した後、エルシィが問いかけてきた。


「ステラさんはそれを使って、何を試そうとお考えなのかしら?」

「財布を使っておこなったのと同じ事です。うまくいくかどうかは分からないですが」

「難しそうですわ」


「大いなる力を秘めし神器をぎょすには、更に強大な力を要する。今から行う術は、ステラ、お主の力あってこそ成せる技と言える。先ほどよりも負荷がデカイから、覚悟するのだな」

「アジさん。受けて立つです!」


 相棒からの脅しに、ステラはキュッと唇を引き結ぶ。

 するとすぐに、術式が足元に描かれた。神器と、人工精霊と、そしてステラ。それぞれを繋いだ後、先ほどよりもずっと濃い色合いの地図が表示された。

 示された場所は自動筆記帳と同じ――つまり、財布を使って捜索したときと一緒の結果になっている。


 フラフラになったステラはエマの手を借りて、近くの椅子にへたり込む。その様子を鋭い目で観察していた男は、地を這うような声を出した。

 

「地図を信用しないわけにはいかなくなったようだ」


 皇帝の声には驚嘆の色が隠せていない。

 

「申し訳ないが、……そなたは人間なのか? 以前小耳に挟んだ情報を思い出したのだが、ガーラヘル王室に――」

「――それ以上失礼な事をおっしゃっらないでくださいませ!」


 確信を突くような質問にステラの心臓は大きく飛び跳ねたのだが、エルシィが遮ってくれたおかげでそれ以上は続かなかった。


「ステラさんは私の大切な方。いくら皇帝陛下と言えど、不躾な言葉を吐かれるのであれば、許す事は出来ません!」

「す、すまない……」


 他国にまで出生の秘密が伝わっているを知り、ステラは不安を感じずにいられなくなった。


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