王家を加護する者
列車の中は以前と変わらず豪華絢爛だった。
良い木材をふんだんに使った家具に、充実した設備。
ステラがここに来たのは二度目になるが、内装の格調が高すぎて未だに居心地が悪く感じられる。
エルシィにラウンジスペースに案内され、ステラは直ぐにテーブルの上にブラウンダイアモンドを乗せる。
自分が帝国に行く目的はこのブラウンダイアモンド――金剛杵を雷神に返す為なので、同行者であるエルシィには一度見せておきたかったのだ
現在のブラウンダイアモンドの内部は以前にも増して激しいプラズマが発生している。
そのプラズマの領域は不思議なことに法具をかたどっているかのよう――ダイアモンドがただの茶色のガラクタではないのは誰が見ても明らかだろう。
エルシィは口元にハンカチをあて、この珍妙なアイテムを凝視する。
「これは……、非常に美しい宝石――いえ、武器ですわ。内部のエーテルが活性化している状態なのかしら?」
「他の人の手にあった時はこんな風にはなっていなかったですけども……。なんでこうなっちゃったのかな」
「何か大きな力の片りんに触れて、反応してしまっているのかもしれませんわ」
「ふむふむ」
エルシィはなかなかに興味深い話をしてくれる。
その博学さに感心して何度も頷けば、彼女は嬉しそうに微笑む。
「レイフィールドのことを私も少し調べましたのよ。どうやら雷が頻発する地なのだとか」
「そうなんですか。雷って夏にいっぱい鳴るから、寒い国で頻発するのはちょっと意外かもです」
「流石ステラさん。いい線つきますわね」
「ん?」
「色々なパターンがあるのです。暖かい空気と冷たい空気がぶつかり合うような場所でも巨大な雲が発生し、雷が発生しやすくなります。レイフィールドはちょうどそのような場所。訪問時は充分気を付けましょう」
「ほい!」
頻発するとはいっても、レイフィールドの街には人間もちゃんと暮らしているらしいので、そう大したことはないだろう。
ステラは
シットリしたシフォンケーキには滑らかなクリームがたっぷりとのっていて、シンプルなのに非常に美味しい。
今ここに居ないアジ・ダハーカとエマの分も確保しておきたいところだ。
「あの、これお部屋に持ち帰ってもいいですか? 駄目なら……諦めますが……」
「お気に召されたのでしたら、ホールで用意させましてよ。後でパティシエに運ばせますわね」
「わぁい! 食べ放題なんです!」
「そんなに喜んでもらえると、用意させた甲斐がありましたわ。他にも必要なものがございましたら、遠慮なくおっしゃってくださいな」
「うん!」
「そういえば、駅前の売店はどうすることになさったの? 旅行にお誘いした後に、少しお悩みになってましたわよね?」
「実は、以前の出品者さんに任せて来ちゃったんです」
「えっ!?」
エルシィは目を丸くした。
驚くのも無理はない。
普通ならそういう相手に関わったりしないのだから。
「ステラさんの事だから、きっと理由あってのことですわね?」
「ええと……、そうなのです。共通の敵がいるというかなんと言うか」
「敵? まさか、またトラブルに巻き込まれていたとでも?」
「あー……」
実の姉であるエルシィに心配かけまいとしていたのに、気が緩むとすぐにこれだ。
ジェレミーにされたのと同じように、再び根ほり葉ほり聞かれ、アレムカとの一件を洗いざらい説明するはめになってしまった。
エルシィは聞き終えると、ブルブルと震えた。
この感じだと、『自分もアレムカに報復する』などと言い出しかねない。
どうやって宥めようかと悩んでいる間に、エルシィの方が先に結論に至ったようだ。
「こうしてはいられませんわ! マスコミを利用し、アレムカが契約から逃れられないようにいたしませんと!!」
「うぅ? それって、どういう……」
「この一件を国営放送で報道させるのです! 貴女達の契約に王家の介入があると国民にも知らしめて、不履行に出来ないようにしましょう!」
「ふむふむ」
エルシィは語気の勢いそのままに、自らのお付きの少年を指さす。
「私達の話を聞いていましたでしょう? すぐに国営放送局に連絡を!」
「聞いてはいましたが……。本当に『黎明の香』の存在を国民にお伝えするおつもりですか?」
「ええ。王家の儀式に使うアイテムをこれからはステラさんが作るのだと知ったのなら、お父様はステラさんを実力者なのだと認めないわけにはいかないはずですもの! 一石二鳥とはまさにこのことを言うのですわ!」
弾丸のようなエルシィの言葉に、さすがの少年も動揺が隠せていない。
しかしながら、彼女に仕える者としての使命を忘れていないんだろう。恭しく礼をしてドアから出て行った。
ステラは彼の背中を見送ってからエルシィに向き直る。
「前から聞きたかったんですが、エルシィさんは”智恵ある神”にあったことがあるですか?」
「ありませんわよ?」
「……そうなんだ」
「お父様もお会いしたことはないのだそう。だけど……、その事を王室外の者に知られるわけにはいかないのだわ」
「でも、私に言っちゃったですね」
「ステラさんは口外しないでしょうし、なんとなく知っておいてほしい気がしたの」
「ふむぅ……」
智恵ある神の加護を受けているとされるガーラヘル王国。
その国防に神の存在の有無が関係しているとでも言うのだろうか?
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