王女と巫女の微妙な関係
いつにも増して派手な登場をしたエルシィに圧倒されたものの、知らないふりをするわけにもいかず、ステラは彼女の元に近寄る。
「エルシィさん。おはようなんです」
「まぁ、ステラさん! もういらしてましたのね。どこに居たのか全く気が付きませんでしたわ!」
「隅っこに居ましたので」
今まで自分が座っていたベンチを指さすと、どういうわけかエルシィの目が尖がった。
「そちらの方は、もしや……」
彼女がロックオンしているのはエマだ。
厚手のローブを着込んでいるため、顔が見えづらいけれど、エマから
彼女達は決闘の際に顔を合わせているので、特に説明はいらないだろうと思っていた。だけど、そう簡単にはいかないようだ。
急に下がったエルシィの声色は冬の寒さよりも厳しい。
「貴女、まだステラさんに付きまとっていますの? 決闘の後から妙にステラさんの周辺でお見掛けしますけど、一体どういうおつもりなのかしら? まさか、また良からぬことを企んでいるのではないでしょうね?」
「良からぬ事……? 分からない」
いつもながらに淡々とした反応を返すエマのために、ステラは一応説明を付け足すことにする。
「エマさんとは決闘の日から仲良くしてるです。ジェレミーさんとも手合わせして、猛者と認められたんで、住み込みの警備員さんになってもらったです」
「住み込みですって!? しかもジェレミーさん公認で!?」
「う、うん……」
甲高い声は悲鳴にも似ていて、広い構内に反響する。
何がそんなに気に食わないかは見当が付かない。しかし、ここで区切るのも半端なので、構わず続ける。
「今回の旅では私のボディガード? みたいなことをしてくれるんです」
「私。術の行使しか取り柄が無い。頑張って守る」
二人でニコニコと目を見合わせていると、その間に割り込むようにエルシィが移動し、視界が遮られる。
「私1人でもステラさんをお守り出来ますわ!」
「ええと……。エルシィさんは――」
「守られる側」だと続けたかったのだが、エルシィのお付きの者の声に打ち消された。
「――お待ちください、エルシィ様。私の記憶によりますと、あのエマ・コロニアはLv.132。王都屈指の強者であることは間違いないですよ。彼女の同行は私達にとっても大きなメリットです!」
「貴方、私の味方ではありませんのっ!?」
「味方に決まっています! ですが、帝国はウチの国と昔から戦争が絶えなかった国です。お忍びとはいえ、何があるか分かりませんから、腕の立つ者は何人いても無駄にはならないはずです!」
「そうかもしれませんけど……」
「とにかく! ここに留まり続けると下々の者の目に付き、貴女の名誉のためには良くないと思われます。早めに出発してしまいましょう!」
「腹立たしいですわね。だけど、貴方の言い分も一理あるのもたしか。発車の用意をお願いしますわ」
「ええ、勿論です」
エルシィは説得に折れるしかなかったようだ。
とりつくろうような咳払いをした後、ステラに向かって麗しい笑みを浮かべる。
「さぁ、ステラさん。そろそろ列車に参りましょう。こたびも快適に過ごしていただけるように手配させましたの」
「あ、出発のお時間なんですね! 皆行こうです!」
「列車旅も久しぶりだな。楽しみだ」
「……楽しみ」
成り行きを見守っていたアジ・ダハーカとエマに声をかけてから、ステラはエルシィに並ぶ。
改めて隣を歩くエルシィを見上げてみれば、今日も実に美しかった。
こんな麗人が自分の姉だなんて今でも信じられない。
可能であれば周りに自慢していぐらいだが、口外すると面倒ごとが山ほど増えるのがわかるので自重している。
駅のホームに踏み入ると、以前乗ったことのある列車が停車していた。
これを利用したなら、長い列車旅も苦痛ではないだろう。
「まずは帝国の首都クペーオンへ行き、そこでステラさんの用事を済ませましょう。レイフィールドはその後で。これで問題ないかしら?」
「はい! クペーオンにマクスウェル家の分家があるので、そこの人に帝国図書館の利用カードを偽ぞ――じゃなくて、用意してもらう予定です! ええとそこで、ブラウンダイアモンドについての調べものをしようかなと思ってまして……」
うっかりマズイ事を口走りそうになり、慌てふためいたが、エルシィは特に疑問に思わなかったようだ。
育ちが良い人間は聞き流すのがうまいのかもしれない。
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