軽率にして老獪
サングラスを引き下げ、ステラを見据えるアムレカ。
その瞳は品定めをするかのようで、長く目を合わせたならプレッシャーでくたびれてしまいそうだ。
それでもステラは見つめ続ける。
「アイテム士としてのプライドがあるんだったら、アイテムの品質で勝負すべきだと思うです。汚い手を使うなですっ」
「プライド? そんなモノはとうに捨てた。この激戦区では綺麗ごとだけじゃ生き残れないんだ」
「それは実力が無い人間の言い訳だと思うです。自分の手でアイテムを作ってお店に並べても買い続けてもらえないから、ライバルに悪さするしかないんですっ」
「……知った風なことを言うじゃないか。あたしはこれでも、先代のガーラヘル王にアイテムを献上したほどのアイテム士だよ。10にもみたいない小娘なんか目じゃないね」
「私はもう13歳なんですっ」
「知ったこっちゃない」
頬を膨らますステラに対し老婆は鼻で笑う。
適当にあしらえば、そのうち諦めて帰るだろうとでも思っているだろうか。
しかしこちらとしては、何の収穫も無しに帰るわけにはいかないので、どうしたものかと頭を捻る。
手の打ちようが皆無ならば、最終的には警察に駆け込もうと考えていたけれども、今アレムカと話した感じだと、公的機関の人間を買収しかねない。
やはり自分で何とかしたいところだ。
ステラは改めてアレムカを観察する。
この強硬さは少し異常だ。しかも奥へ引っ込む素振りすらみせず、ステラを威嚇し続ける。
それは何故なのか?
何となく思い出すのは、先ほど彼女が奥に引っ込ませた彼女の孫――ブリジッドの姿だ。あの行動は退避させるためだったように見えた。
孫を守りたいのだろうか?
「――ブリジッドさんもアイテム士ですか?」
小声で質問すれば、アレムカの口元が目に見えて下がる。
なるほどと思う。
恐らくブリジッドはこの老婆にとってのウィークポイントだ。
「アレムカさんが凄腕のアイテム士さんだったら、孫のブリジッドさんもきっと凄いアイテムを作るアイテム士さんなんですねっ!」
「……」
「二人で良いアイテムをいっぱい作ったら、私みたいな新参者に負けるなんてことないと思うですっ!」
「……」
「いっそこのお店も、駅に出店を開いて、直接対決といきませんかっ!?」
「……」
冷めた目つきでこちらを見据えるアレムカに対し、ステラは過剰な程明るく振る舞う。先ほどあからさまな反応を見せたきり彼女はノーリアクションなので、空回りしている感覚だ。
「……ブリジッドさんに、正々堂々と戦わせたくないですか? 婆さんと孫の関係って知らないですけど、あなたが他のアイテム士に嫌がらせをしていたって事を知ったら、彼女も罪悪感を感じちゃいそうです」
「勿論、孫には正々堂々と勝負してほしいさ。だがね、アイツはアイテム士として無能だし、あたしの製薬スキルもまともじゃない。この店を続けさせる為にはこうするしかないんだ」
「むぅ……」
話は平行線を辿り、解決なんか出来そうにない。
ここからどう話をもっていくべきだろうか。
肩を落とすステラに代わり、アジ・ダハーカが口を開く。
「老婆よ。『製薬スキルがまともじゃない』というのどういうことなのだ? もしやお主の孫が言っていた”呪い”とやらが関係するのではないか?」
「ふんっ。何故小竜などにあたしの悩みを言って聞かせなければならない」
「そう言うな。儂はこう見えても、とある神に仕えておる。人間風情に相談するよりもよっぽど頼りになるはずだ」
「とある神……? 怪しいもんだ」
「怪しむのならば、今宵儂と共に盃を交わそうぞ。儂の造詣深い話に感銘を受けるだろう」
「小竜ごときがこのあたしを口説くとはね。まぁいい。たまには燃料補充といこうか」
「決まりだな」
「こわ……」
こういう時の相棒の独特なノリは苦手だ。
◇
店を出て、ステラはぼんやりと駅に向かう。
頭に思い描くのはアレムカの強硬な顔。
孫と店を守る為とは言え、悪事に手を染めているのは間違いなく、そこに同情の余地はない。
「なんだかなぁ……」
「――まって! ちょっと待ってよー! そこのちっこいお客ちゃーん!!」
「む? なんだか騒がしいですね……」
後ろから若い女性の大声が聞こえたものの、呼ばれているのは自分とは思わず、ステラは歩き続ける。
そうしていると、ドタドタと足音も聞こえてきたので、振り返らざるをえなくなった。
「待ってよ! ゼエゼエ」
近付いて来ていたのは、オレンジ色の髪の女性。
ド派手な服装はデーメニア通りにあって非常に目立ち、道行く冒険者達の視線を集めている。
「あ……、アレムカさんの店のブリジッドさん」
「そうっ!! さっきの話、全部聞いた! お客ちゃん……、ごめんねぇ」
「うわっ……。ええと、うーん……」
目の前でワッと泣かれてしまい、ステラは右往左往するしかなかった。
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