デーメニア通りのアイテム士

 ステラの自白剤により、少年は白状をし始めた。

 

「――日中に学校にも行かず、駅の売店で働いていたら、俺の家が貧乏だって誰でも分かる。だから付け込まれたんだ」

「お金が欲しかったですか?」

「そうだ。金さえあれば俺は自由になれるんだ」

「確かにそうかもですね。それで、えーと……。ずばり実行犯は誰なんですか?」


 ついに自分に嫌がらせをしていた首謀者が明かされる。ステラは鉄格子を握りしめ、ジットリと少年の口元を凝視する。


「アレムカ婆さん……。デーメニア通りにあるアイテム屋の店主だ」

「デーメニア通り、ですか」


 デーメニア通りというのは、王城へと続く大通りから3本程ほど東にある道のことで、冒険者ギルドが通り沿いに立つ。

 自作ポーションを出品している売店に近いこともあり、ステラは少しばかり動揺してしまった。


「婆さんは駅の売店に客を奪われたことが許せないんだ。『あんな劣悪品に市場を奪われてたまるか』と。だから、評判を落とそうと、俺に【感電】効果付きのポーションとすり替えさせた」

「劣悪品……うーん」


 ステラのポーションと交換されそうだったアイテムを、以前実験してみたことがあるが、控えめに言ってもこちらが勝っていた。

 それだけに、ステラの胸にはムクムクと反発心が沸き上がる。


「そんな事ないですっ。品質は優ってたです!」


 スカートの裾を握りしめて悔しがれば、エマの静かな目に覗き込まれる。


「デーメニア通り。今から行く? 行って分からせる?」

「行くですっ」


 こうなってくると、もう少年なんかに構っていられない。

 エマに少年の見張りを頼んだ後、足取りも荒く家を出る。

 すると、屋根の上で日向ぼっこをしていたアジ・ダハーカが木の葉このはの様に降りて来て、ステラの肩にぶら下がった。


「どこへ行くのだ?」

「冒険者ギルド近くのアイテムショップなんですっ! 私のポーションに嫌がらせされかけたんで、文句を言ってやらないと」

「アレムカの店か?」

「知ってたですか」

「うむ。アレムカは素材の転売業も行っておるゆえ、それなりに有名な婆さんだぞ」

「その人が転売をしているから、最近高くなっている素材があるですか?」

「アーシラの情報によるとそのようだな」

「ぬー。クセがある人っぽいですねー」


 相棒と話しているうちに多少は冷静さを取り戻したが、今回の件についてはきちんとアムレカに牽制けんせいしておきたい。


 デーメニア通りを北に向かって歩き、駅を通り越すと、フラスコと鍋を組み合わせた看板が見えてきた。

 立派な店構えに圧倒されつつも、回転扉を通り抜けて入店する。


「いらっしゃいませ~!」


 出迎えてくれたのはカウンターに座った、若い女性だ。

 てっきり店内には年老いた女性しかいないとばかり思っていたため、ステラはしどろもどろに頭を下げる。


「こ、こんにちわ……」

「今日は何をご購入の予定ですか!? お勧めは”きつけ薬”に”解毒薬”、”石化解除”、それから”ポーシ……おっと、いけない。アレムカ婆ちゃんは”呪い”にかかってるから、在庫切れの薬は作れないんだった!」

「呪い?」

「そーなの! ほんと笑えるんだけど、婆ちゃんてばさー、ヘンテコな素材を入手してから雷の――」


「これ、ブリジッド!!!!」

「きゃっ!」


 空気をビリビリ言わせるほどの怒鳴り声がしたかと思うと、店の奥からデップリとした老婆が現れた。

 黄緑色の髪は玉ねぎの様な髪型で、紫色のサングラスをかけている。全身に目が眩むほどの宝石を身に着けており、一目で金持ちだと分かる身なりだ。


「好き勝手にベラベラしゃべりおって! 今月の小遣いは抜きだよ!」

「ごめんごめんごめん! もー、喋んないからお小遣いちょーだいよー!!」

「煩い! お前は奥へ引っ込みなっ!」

「分かったー。はぁ~~」


 血の繋がった祖母と孫なのだろうか?

 明るい女性から威圧感たっぷりな老女に代わった事に動揺し、ステラは何となく目を彷徨わせてしまう。


 そうしている間に、アレムカらしき老女は膝を立てて椅子に腰かけ、葉巻に火を付けた。


「アンタ、客じゃないだろう?」

「客なんかじゃないです」

「……あぁ、そうか。分かった。近くの駅に出品しているチビアイテム士か」

「そうですよ。私のポーションに悪戯しないで下さいっ」

「出品を止めるなら、直ぐにやめてやるさ」

「私が出品しなくなっても、鉄道会社さんは別のアイテム士さんに頼みますよ」

「だったらまた追い払うまで。アタシがまたアイテムを作れるようになるまでね」

「意味わかんないんですっ! もしかして、さっきのブリジッドさんが言ってた”呪い”が関係してるですか?」

「煩いね! 言いたい事言ったんなら、帰んな! 人の都合に首を突っ込むんじゃないよ!」

「そんなわけにいかないですっ。チビでも、私だって真剣にお店をやってるんだもん。イジワル婆さんには屈しないんですっ!」

「ほぉ?」


 アレムカはカウンターの天板に葉巻を押し付けた後、サングラスを下げてステラを見た。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る