老婆にかかる呪いとは?

 ブリジッドは二十代前半の女性だ。

 オレンジ色の長い髪だけでも目立つというのに、黄色のワンピースを着ているので、石畳の道にあってかなり浮いて見える。

 そんな彼女がただの幼児にしか見えないステラの前でむせび泣く。

 静かに泣くのなら道行く者達に無視されただろうが、ワァワァと声を上げて泣くため、そうもいかない。

 まるで自分が泣かせているような気分になってきて、ステラは仕方が無しに彼女の手を引いて、人通りの少ない脇道へと入った。


「飲み物でも買って来ますか? いっぱい泣いて喉が渇いたんじゃないですか?」

「いらないよ……」


 道端に蹲ったブリジッドはブンブンと頭を横に振る。

 そんな彼女を見下ろして、ステラは首を傾げた。

 追いかけて来るくらいだから、ステラに対して何か言いたい事があるのだろうが、こういう場合はなんと切り出すべきだろうか。


「あー。何て言ったらいいんだろ……。ブリジッドさんもアイテム士なのだと聞いたんですが、アレムカさんの代理でアイテムを作ったりはしないですか?」


 アレムカの口からブリジッドは『アイテム士として無能』だと聞いた。

 それは一体どの程度なのか、少しばかり興味がある。


「作れない……。私、ジョブはアイテム士だけど、スキルが全く身に付かないから……ぐすっ……」

「むむ……。それって、実用書を読むとか、適当にアイテム作っていると身に付くような?」

「そんなことないよっ! 才能がある人なら先生とかから教わったり、本読んだりするだけでスキルを獲得出来るけど、私みたいな凡人には多少努力したくらいじゃ何のスキルも得られないんだよっ」


 ブリジッドは自分の苦労を思い出したのか、またもや泣いた。

 メインジョブがアイテム士だというのに、スキルが身に付かないなんて、本当にあり得るのだろうか。

 幼少期から適当にスキルを増やしてきたステラには、その状況を想像するのが少し難しい。


(誰にアイテム作りを学んだのか分からないけど、この人の先生が悪いんじゃないかなぁ……。大変だなぁ)


 ぼんやりと同情するステラに対し、ブリジッドは身の上話を続ける。


「だから、アレムカ婆ちゃんが呪われても、私は代わりになれないんだよ。ホルス家のアイテム士業は婆ちゃんの代で断絶しちゃうんだ」

「呪いって何の事を言ってますか? アイテムを作ると【感電】の効果が付与されるなんて、初めて聞いたんです」

「それはね――――」


 ここぞとばかりに踏み込んだ質問をするも、ブリジッドは鬱陶しがりもせず、少しばかり長い話をしてくれた。


「――アレムカ婆ちゃんはアイテム士業だけじゃなくて、素材なんかの転売業をしているんだけど、ある時希少な石を手に入れたんだ。レイフィールドっていう土地を知ってる?」

「レイフィールド? 分かんないです」

「そっかぁ、とにかくそこで採掘されたダイアモンドなんだよ」

「ふむふむ」

「ダイアモンドって聞いたら、指輪に嵌ったちっこいものを想像するかもしれないけど、婆ちゃんが手に入れたのは両手を合わせたくらいのサイズ……なのかな。とにかくすっごくおっきい!」


 その大きさを表現する彼女の手元に注目すれば、なるほど、確かに巨大かもしれない。

 目を丸くするステラに気を良くしたのか、ブリジッドの話には熱が入る。


「しかもね、石の内部が不思議な構造になっているの。稲妻が走るみたいに光るっ! ピカピカーってね! とっても綺麗で……だからこそ、婆ちゃんが手元に置くことにしたんだけど、それからおかしくなったんだよ」

「内部に雷の精霊が入ってたとかですか?」

「そうなのかなー? 鉱石に詳しい専門家でも、その現象は説明出来なかったから、不思議な生き物が関わっている気はするねっ」

「それは随分なお宝ですね~」

「ねぇ、今からウチに来て現物を見てみない?」

「うんー……えっ!?」


 流されるままに頷いたステラは、直後に後悔した。

 アレムカの状態を知りたいとは思ったけれど、別に彼女の持ち物には興味が無い。

 下手な事をして、後々問題が起こったりでもしたら面倒だ。


「やめとこうかなー。今、4時ちょっと前なので、そろそろお家に帰ってお風呂にでも入りたいようなー?」

「見るだけならすぐ!」

「えー」

「お客ちゃん、アイテム士なら分析魔法が使えるでしょ? どうせだったら、あのダイアモンドを鑑定してみて! 呪いを解く方法が分かるかもしれないし!」

「呪いを解く……。うーん……」


 アレムカはステラに対して嫌がらせをくわだてた人間だ。

 だというのに彼女の呪いを解くなんて、一体なんの意味があるのだろうか。

 イマイチ価値を見出せず、ステラは腕を組んで唸る。


「さっき対等に競い合いたいって言ってたよねっ! だったらアレムカ婆ちゃんにだってハンデを失くす権利があるはずだよ! 協力してよ」

「うへぇ……」


 あまりの図々しさに頭を抱えてしまう。

 だけども、うまくやればアレムカに恩を売れ、嫌がらせが止むかもしれないのだ。

 それに不思議素材についての見分も広がるだろう。

 確かなメリットがあるのは間違いないので、ステラは渋々頷いたのだった。


 

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