同居人は受け入れられるのか?
窓から差し込む爽やかな朝日の中、ステラはカップに入ったコーンスープをスプーンでグルグルとかき回す。
昨日商業学校で持ちかけられた話は自分だけで結論を出せるものではない。しかしながら身内に相談しようにも話の切り出し方が難しく、悩んでいる間に、こうして無駄な行動をとってしまっている。
「うーん……」
「どうしたの? さっきから」
つい漏らしてしまった呻き声は目の前に座る義兄にすかさず拾われる。
寝癖が酷いステラに対し、こちらは既に完璧な見た目に整えられていて、今すぐにどこへでも出かけられそうだ。
ステラはそのエメラルドグリーンの瞳をジトリと眺めつつ、テーブルの上にカップを置く。
無駄に考え込まずにさっさと打ち明けてしまおう。
「……一つ質問してもいいですか?」
「質問? いいよ」
「この家にっ! 人間がもう一人増えたらどう思いますかっ!?」
「……邪魔だったら消すかな」
あまりにも酷い言葉を即答され、ステラは慌てる。
「消っ!? そういうことを聞きたいんじゃないんです! 誰かが家で暮らすことになったらどう思うかです!」
「僕としては妹である君と、セキュリティー担当のアジ殿、そして家政婦のノジさんが居たら充分かな。煩い親たちもいないから、今が一番暮らしやすいんだよね」
「変化を望まないですか?」
「特には」
「その人の生活費は私が出すとしても?」
「……」
ここまで言ってしまうと、ジェレミーの顔は不審そうな表情になった。
「君。もしかして一緒に暮らしたい相手が居るってこと?」
「ええと……。私の感情というよりも、向こうが私を必要としているかもしれないので」
「賛成出来ないかな。その人物とうまく付き合っていける自信が微塵もないや」
「ジェレミーさんが好きなロリですよ!」
「ロリなら何でもいいわけじゃないって普段から言ってるでしょ。さて、そろそろ出勤の時間だ」
「あー……。行ってらしゃいー」
「行ってきます。お弁当のピーマンは全部食べること」
「ふぁい……」
ジェレミーはさっと立ち上がり、ダイニングルームを出て行ってしまった。
いつもよりも冷たい態度なのは、ステラの話を好意的に受け止めなかったからだろう。
同居人が増えて家の中に混乱が持ち込まれるのは許容出来ないかもしれない。
「やっぱりエマさんをこの家に迎えるのは難しいのかなぁ」
ステラ自身がこの家の人間と血が繋がっていないので、適当に考えていたが、大抵の家にとっては子供を一人受け入れるのは大変な決断なのは間違いない。
説得出来るかどうかは自信がないけれど、何度かチャレンジしてみた方が良さそうだ。
◇
心配事を抱えていたとしても、学生というのは自由が効かない身分である。
普段と同じように学校で授業を受けなければならない。
だらだらとレイチェルやエルシィと話したり、クリスにドローンを返却するついでに、ポーションの制作過程をまとめたレポートを渡したりしながら退屈な授業をしのぐ。
漸く放課後になり、ステラはアジ・ダハーカと共に西区へと向かう。
「アジさん。以前”妖精の大麦”を渡してましたよね?」
「うむ。おそらくビールを造るのに十分な量は保有している。しかしだな、あのヴァンパイアの青年に”妖精の大麦”を渡す際は宅配サービスを利用するのではなかったか? どんな心境の変化だ?」
「一度エマさんの状況をみたいなって思ってます。家の書庫から良さげな魔法書を持って来たから、目覚めさせる方法がわかるかもなんです」
「果たしてうまくいくかどうか」
「何か引っかかってるですか?」
「うむ。巫女の術は魂に働きかける性質。となれば、お主が現在使える魔法の体系から外れるのだ」
「そうなんだ。アジさんは何か良さげな方法を思いつけますか?」
「方法がないわけではないが……。巫女の状態を見てから答えさせてもらおう」
「うん」
話をしているうちに、カーラウニの家が経営しているバーに辿り着く。
相変わらず多くの客で賑わう店内を抜け、地下まで行くと、目的の人物がカウンターに居た。
ステラ達を目にした彼は毒気の抜けた笑顔で片手を上げた。
「神様やん。最近毎日会うてるやんね」
「カーラウニさん。どうもです。今日は”妖精の大麦”を渡しに来たですよ」
「言うてくれたら、取りに行ったんやけど」
「エマさんが気になるので、大麦を渡すついでに会わせてもらおうかなと」
「……優しいんやね。直ぐに店じまいするわ。その辺にかけて待っとき」
「あい」
相棒と共に店内をブラブラするステラは、一つの変化に気が付く。
「あれ? 中央に邪神の像が立っていたような」
「ああ、ワシがブサイクにデザインされたあの像か。確かに撤去されたようだな」
「邪神崇拝をやめたのかな?」
「逆だろう。本物が近場にいるから偶像を置く必要がなくなったのではないか」
「ふーん。そんなもんですか」
「像とお主の姿に差があったからな。馬鹿らしくなったんだろう」
言われてみると、そんな気もしてくる。
しかし、彼の期待には全く応える気持ちはないので、少々微妙だ。
少ない関わりの中でステラに幻滅してくれることを期待したい。
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