友人を救う為に(SIDE ステラ)

 エルシィとレイチェルを捜索するため、二人は暗い遺跡の中をひたすら歩く。


 ステラはトロい足を懸命に動かしつつ周囲を見回す。

 両脇の壁には色鮮やかな壁画がのこされており、遺跡の特色が見て取れた。


 遠い昔、ここには邪神をまつる神殿が建っていたらしい。

 かの神は以前悪しきものとはされておらず、多くの信徒を有していた。


 しかし宗教施設として利用するには、ここはあまりにもエーテルの噴出量が多く、問題視されるようになった。


 ガーラヘル王朝は、その黎明れいめい期より、政教分離を敷いてきた。

 そのため、一宗教団体が力を持ちすぎているのは少々問題があった。

 神殿としての利用の禁止に始まり、神の性質の歪曲化、信徒の弾圧。

 歴史を紐解けば、この国の王族は眉をひそめてしまうような所業の数々を断行している。


 そこまでやってもなお、この神殿はその役割の本質が変化しなかった。

 大昔の術者が有能だったからなのか、はたまた、尽きることなく湧き出すエーテルによるからなのかはハッキリしないが、幾ら破壊行為をされても、この遺跡が大きく破損することはない。

 大破されても、数時間で自動に修復されるようだ。


 現在、国はこの遺跡のエーテルを利用しつくすという方針に変えたらしい。

 国有施設のエネルギー源としての使用や、今やっているように決闘でのエーテルだまりの消費などなど、バラエティー豊かな関わり方をしている。


 この遺跡にまつわる話の数々を思い出し興味深く感じるステラだが、一緒にいるフランチェスカの様子はそれ以上だ。

 いつものクールっぷりからは想像出来ないくらいに、可愛らしい反応をしている。


「凄い……。神が下々に力を分け与える光景が描かれているわ……。これを見れただけでも、決闘に参加した甲斐があったというものよ」

「フランチェスカさんは邪神さんを信仰してるですか?」

「そう。というか、ヴァンパイアは皆アンラ神を信仰しているわよ」

「なんかそれ、習ったことあるかもしれないです」

「でしょうね。……大昔からの言い伝えでは、ヴァンパイアの優れた力と、他者の血から能力値を向上させる特殊な体質は神から授かったとされているの。現在ヴァンパイアが相対的に弱まっているのは、神の力の衰えなのではないかと考える人もいるわ」

「うーん……。前に読んだ本には、ヒト族とヴァンパイア族が混じり合った結果、能力がどっち付かずになったと書いてました」

「その通りよ。でも、ヴァンパイア同士としか婚姻を結ばない者達もいるから、そう断言も出来ないけどね」

「なるほど」


 フランチェスカの話と、先ほど決闘相手達が口にしていた内容を併せて考えてみると、カーラウニは”邪神の力の解放により、ヴァンパイア全体が強化される”ことを望んでいるんだろう。そして、アジ・ダハーカが神の巫女と言っていた少女も、同様の願望を持っている。


(あの子供は、邪神の巫女ってことなのかな? この遺跡に入る為に、カーラウニさんに近付いた?)


 早足で歩きつつも、頭の中では相手側の意図についてとめどなく考え続ける。

 そういえば、アジ・ダハーカもだいぶ態度がおかしかった。それも含め、胸に不安の種が仕込まれたような感覚だ。


 フランチェスカはステラの表情から思考を汲んだらしく、言葉を付け加えた。


「さっき、カーラウニ達と一緒に居た子供のことだけど……。アレと初めて会ったのはヴァンパイアの共同墓地だった」

「うん」

「それから、ずっと足取りを追っていたのよ」


 約一週間フランチェスカと連絡が取れなくなっていたのは、あの子供を調べていたかららしい。

 彼女は一族を取りまとめる立場にあるようだし、墓地で目にした巫女の行為を看過かんかできなかったのだろう。


「死したヴァンパイア達からエーテルを抜き取るものだから、わたくし達に反目する意図があるのかと思っていたのに、各地の有力なヴァンパイア達にゴマを擦ったり、王室付きの魔法使いと接触したり……、コミュニケーション能力に問題があるように見せかけて、結構な立ち回りようだったわ」

「はえぇ……。まだ小さいのに、凄い行動力なんです」

「お前……、見た目だけなら大して変わらないわよ?」

「もう13歳なので、結構大人ですよ!」

「ふぅん」


 肩を竦められる理由が良く分からず、首を傾げてしまうステラである。

 それから数分間歩くが、遺跡の中は広いだけでなく、入り組んでおり、崩落現場に行きつかない。

 向かっている方角がこれで合っているのかどうかも不明だ。


(アジさん、そろそろ二人を見つけてくれないかな……。もしも怪我とかしていたら、治療は早ければ早いほどいいし)


 小型のモニターをヤキモキとのぞくも、画面の中に小さなドラゴンの姿はない。

 ため息をつくステラだったが、唐突にフランチェスカに手で制された。

 彼女の顔を見上げると、非常に怖い顔で前方を見ていた。


(青白い光が見える……。あれって、エーテルなのかな?)


 前方の通路の奥から、強烈な光が溢れていた。

 そしてその光源の近くに小柄な人影もあった。


(こんな所に巫女さん!?)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る