巫女を分析

 ステラはフード姿の子供に右手を向け、【ディープアナライズ】を使用した。


【名前】エマ・コロニア

【ジョブ】神の代弁者 L v129

【サポートジョブ】なし

【パラメータ】 STR:21 DEX:66 VIT:58(+200) AGI:51  INT:1,259(+1,300) MND:1,390(+1,300) HP:720 MP:11,340

【アビリティ】攻撃魔法Ⅲ、治癒魔法Ⅳ、防御魔法Ⅴ、分析魔法Ⅱ/祈り、覚醒の唄、守りの唄、神との対話、脆き魂の破壊

【弱点】睡魔


 空中に表示されたステータスはとんでもない内容だ。

 素の数値でもとんでもなく強いのに、装備品の影響により補正がかかり、化け物染みた能力値となっている。

 ここで神の代弁者エマと直接的にやり合えば、決闘でステラが敗北するのが確定してしまうだろう。

 どうしたものかと、唇を尖らせるステラである。


(うへぇ……。敵うわけない。あ、でも弱点は随分シンプルなような??)


 見た事も聞いた事もないスキルの数々に恐れを抱くものの、弱点に関しては一般人的だ。そこを突いてリスク無く対処したい。


(あの子がここでやろうとしている事は、やっぱり止めた方がいい気がする)


 妨害する決意を固めるステラの耳に、エマのか細い声が届く。


「……いついかなる時……祈り……地上の力を差し出……」


 その声に呼応するかのように、エーテルの集合体は輝きを増してゆく。

 気を抜くと、つい見入ってしまいそうな程に神秘的な光景だ。

 雰囲気に飲まれないように、ステラは自分のホッペを両手で叩き、ポケットから小瓶を取り出した。


 キャップを捻るとフワリとラベンダーの香りが広がる。

 実はガーラヘル王国の王妃様にこの香りを気に入ってもらえたと知り、ステラは常に持ち歩くようになっていた。また困っている人が居たらプレゼントしようと考えていたのだが、今はこれを使って巫女をなるべく穏便に無力化したい。


 フランチェスカが怪訝な表情で見下ろしてくるのに構わず、ステラは思い切って小瓶をぶん投げた。


――――カーン……コロコロコロコロ……


 物音に気が付いたんだろう。エマが緩慢な動作で瓶に視線を移し、パチリと瞬きした。


「【効能倍加】!!」


 彼女はステラの声に顔を上げ、一瞬喜色満面の表情を浮かべた。


「やっぱり……来てくれた……。あ……れ?」


 グラリとエマの身体が揺らいだかと思うと、糸が切れた人形のように地面に崩れ落ちた。倒れた拍子に彼女の頭部からフードが外れ、真っ白な髪が露わになる。

 あまりにも呆気なくて、ステラは激しく動揺した。


「あわわ……、子供に危害を加えちゃった。私、お巡りさんに縄を掛けられちゃうかもなんですっ」

「何言ってるの? これでいいのよ。アレのステータスを見たでしょ? 私達2人の力を併せて戦っても負けたと思うわ」

「それは、そうですけども」

「とりあえず、アレが寝ている間にどこかに閉じ込める。これほど危険な人物をウロウロさせておいたら、他の者達にも危害が及ぶから」

「うん。エマさんの封じ込めに私の魔法を使うです。そうしたら、そこにあるエーテルだまりを吸収できるはずなんで」

「それがいいと思うわ。急ぐわよ」

「ほいっ」


 エルシィとレイチェルの救助を急ぎたいけれど、エマがいつ起きるともしれない状態で放置しておくのは結構まずい。

 後の事を考えて、手早く無力化させるのがいいだろう。


 フランチェスカがエマを担ぎ上げ、今来た道を戻る。

 足の速い彼女を追いかけるのは容易ではないものの、ステラは懸命について行く。

 通路の突き当りで、フランチェスカはエマの身体を下ろし、ステラに目配せした。


「ここにしよう」

「岩で閉鎖しちゃいますね。【昏天黒地こんてんこくち】!!」


 ステラの魔法により、天井や壁、そして地面から巨大な岩が無数に出現する。

 一度だけでは隙間が多いため、5度程同じ魔法を重ねがけし、以前からこの岩で埋め尽くされていたかのように仕立て上げる。

 【昏天黒地こんてんこくち】は妖精の国で、アビリティを強化してもらった後に習得した上級魔法なので、使用することに少々不安があったのだが、問題なさそうだ。

 後はエマがなるべく長く眠っていてくれるのを願うばかりである。


「お前、以前よりも魔法の腕が上がっているのね。見直した」

「ちょっとズルしてるんですけどね」

「なによそれ?」

「気にしないで下さい! それよりも急ぎましょうです」

「?」


 不思議そうな様子のフランチェスカを伴い、先ほどの小部屋に駆け込む。

 エマに何らかの術を使われていたエーテルの集合体は、何事もなかったかのように穏やかな状態に戻っていた。

 これなら、今からでも間に合いそうだ。


「【エーテル添加】!」


 ステラの言葉に反応し、光の球はスッと消失した。

 その途端、身体の内側に大きな力のうねりを感じ取るが、意外にもスンナリと落ち着き、制御可能な状態となった。


「ふむむ……。力がみなぎるんです」

「お前ってほんとタフよね……」

「そうですか?」

「いい事よ。早く王女たちの元に行きましょ」

「ほいっ!」


 ステラとフランチェスカは、再び崩落現場に向け駆け出した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る