平行線を辿る
カーラウニがテーブルに叩きつけた二枚の写真を見ながら、ステラはブルブルと震える。こんなに恐ろしいことが起きるだなんて、この学校に踏み入る前には想像もしなかった。
相棒である小さなドラゴンが復讐の為に用意したソレ等は、復讐対象である売店係長にだけダメージを与えるものではない。
被写体が二人居るので、もう一人の側の家族にも大きな影響を及ぼすのだ。
両親と血が繋がっていないステラにも、一応そのくらいは分かる。
「この写真はですね。えーと」
「見れば分かるだろう。ヒト族のオスとヴァンパイア族のメスの密会現場だ。この儂が撮ってきたのだぞ」
「うにゃっ!?」
ステラが言い淀んでいる間にアジ・ダハーカがハッキリと告げてしまった。
得意げな表情を浮かべている所為で、カーラウニの怒りを更に煽っているのだが、当のドラゴンはソレに気が付いていない。
「そういえば、この写真の美女はヴァンパイアビールの代表取締役の奥方――ってことは、お主の母親なのか。探偵ドラマを参考にして、このような写真を撮ってみたのだが、やはり親がこのような行為をしていると傷つくものなのか?」
「あたり前やろ!? ワイのママは世界一美しくて賢い女なんや。ワイとオヤジを裏切るはずがあるわけない!」
「……残酷な事を言うけれど、現実を見た方がいいわよ。叔母様はこうして、他所の男と
フランチェスカの冷静な言葉はステラの耳に尤もらしく聞こえた。
大人だったら、たぶん個々を尊重し合うものなのだ。
「うんうん。いっそこのオジサンを第二のパパさんと考えても良いかもなのですっ!」
「阿呆か!」
椅子を後ろに倒すような勢いで立ち上がったカーラウニは、憎しみを込めた眼差しでステラを睨みつけた。
「ステラ・マクスウェル。わいを脅す為にわざわざネタ探しとは恐れいったわ」
「ご、誤解です! これはただ、昨日寝る前にちょうど見ていただけで……誰かの弱味に使おうとかそんなつもりじゃなかったというか」
「お前のドラゴンが自供してたちゅーのに、白を切るつもりか」
喋れば喋るほど疑われるのだと気が付き、ステラは両手で口を覆った。
(アジさんめー。こんな写真を撮ってくるから話がヘンテコになっちゃってる!)
昨夜ちゃんと破棄しなかった自分も悪いので、口に出して
平行線を辿るかに思われた会話は、フランチェスカのため息に遮られた。
「お前達二人とも会話が下手だから、話し合いでは収拾がつかないみたい」
「こんな性悪なガキを連れて来たフランチェスカはんにも問題があんとちゃうの?」
「うー、何でこんなことに……」
ステラとカーラウニを交互に見遣ったフランチェスカは、次にとんでもない事を言ってのけた。
「ガーラヘル王国法に基づいた決闘で白黒つけるのがいいかも」
「「決闘!?」」
「そう。ステラが勝利したら、カーラウニはアイテム製作に協力。カーラウニが勝利したなら、ステラはカーラウニの両親を復縁させる。どう? 悪い条件じゃないでしょ?」
ガーラヘル王国法に基づいた決闘とは、数百年前から話し合いで解決しない事柄において用いられる、言わば古典的な決着の付け方だ。
純然たる武力によるのなら公平と思われがちだが、実際のところ、傭兵の起用や代理人の選定が認めらているため、金銭的に恵まれている者が勝利するように出来ている。
この国に住まう者ならばまずは採用しない方法なのだが、近年ではイベントの一環として行われ、名の有る者が参加する際はテレビで放送されたりもする。
「大ごとになってきたような……。というか、男女を復縁させるなんて――あっ、一応出来るか」
過去に作ったアイテムの中に、ちょうど良い効果を発揮する物がある。
アレを継続して使用してもらえたなら、形だけの復縁は容易かもしれない。
「どうして負けた時の心配をするの?」
「勝つか負けるか分からないですから、混乱中なんですっ!」
「心配要らないわ。だってわたくしもステラ側に付いて戦うから」
「そうなんだ?」
「ちょうどカーラウニの一派に腹を立てていたところなの。わたくしの力を思い知らせる良い機会になりそう」
てっきり、カーラウニとの1対1になるかと思っていたが、フランチェスカも一緒に戦ってくれるなら、かなり心強い。
決闘になったとしても、テレビで放送されないだろうが、無様に負けるのは嫌なので、ステラは内心ほっとする。
カーラウニの方も考えがまとまったのか、ニンマリと
「決闘ね。ええよ。受けましょか。ちょーど、あの力がわいに移ったばっかやし、ヴァンパイアの真の力ちゅーのを見せたるわ」
「お前、まさか兄からあの力を……?」
フランチェスカはカーラウニの言葉に顔を曇らせる。
ソレが何を指すのか分からないステラは首を傾げた。
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