地下ダンジョンの核
ステラはエルシィの申し出を受け、彼女をはじめ、近衛兵たちやクラスメイト6名、アジ・ダハーカ、レイチェルに対して新薬を浴びせかけた。更にアビリティでその効果を二倍にまで引き上げ、彼等の能力を大幅に強化した。
オベロンたった一人に対し、多人数で殴ることに負い目を感じなかったわけじゃない。しかしながら、実際に彼と戦闘し、その強さを目の当たりにすると、考えを改めざるをえなかった。
ステラの薬で弱体化されているにもかかわらず、彼が放つ魔法一つ一つがとんでもなく重い。防御を得意とするレイチェルや、エルシィの付き人がいなかったら、誰かの命が失われていても不思議ではない状況だ。
バリアを張り続けるエルシィの付き人にMPを分けてあげながら、ステラは唇を曲げた。
(この大技の連発……。パラメータ的にはオベロンのMPが尽きてしまっても不思議じゃないような。それなのに、まだまだ余裕そうなのはなんでなんだろ?)
オベロンを観察すれば、どうしても目に入ってしまうのが、胸の石だ。
石のみに【アナライズ】しても、分析結果はオベロンのステータスになる。ということは、完全に石がオベロンと同化してしまっている状態だと思っていいだろう。
人が自然に暮らしているだけでは付くはずのないそれは、ティターニアが彼を改造した事の
「アジさん。オベロンの胸にくっ付いた石が何なのか分かるです?」
「石か……。かなり昔、似たような物を見たような気もする。何だったかの……」
「思い出すです!!」
「むむ……」
相棒のお腹の辺りをビシビシと突くと、彼は嫌そうに宙返りしてから、動きを止め、目を見開いた。
「逆さになった瞬間思い出したぞ。確か、南方最大のダンジョン深部で見たのだ。そう、あれは……ダンジョンの核であった!」
「すご! ええと、ということは……。ここの地下がダンジョンとして機能していた頃の核ってことです?」
「ダンジョンとして機能していた頃、というか、現役なのではないか? それに、あれはダンジョンの核にしては小さすぎるかもしれん。別の場所に本体があるのか?」
その言葉にピンときた。ちょうど近づいて来た水棲馬のタテガミをむんずと掴む。
「おい。何をしている?」
「ダンジョン核の本体を探しに行くです! このままじゃマズイ感じなんで!」
「そうは言っても、お主、馬を操れんだろう?」
「ぐぬぬ~、馬さんの脚が長すぎなんです~~」
馬によじ登るには、握力も背筋力も足りていないようだ。
仕方がないので走って行こうかと考えたが、第三者がステラの体を押してくれたので、するりと馬の背に乗れてしまう。
キョトンとしてその人物の顔を見下ろすと、助けてくれたのはエルシィだった。
「わわ! エルシィさん!」
「私も馬術を得意をしていますの。もしよろしければ、私がお連れしましてよ」
「じゃ、じゃあ。お言葉に甘えるです。まずはさっきオベロンさんに遭遇した場所までお願いなんです!」
「ええ。まいりましょうか!」
綺麗な身のこなしでステラの後ろに乗ってきたエルシィは、手綱を握り、さっと自身の付き人や近衛達を見回した。
「貴方達! ここは任せましたわ! ガーラヘル王国の力を示すためにも、競り負けたら許しませんわよ!」
「「「お任せ下さい!! 王女殿下に栄光あれ!」」」
兵士たちの返事を背後に聞きながら、ステラ達は再び地下へと降りる。
オベロンがその動きに気が付いたのか、業火を放ってきたが、レイチェルが【マジックリフレクト】で防いでくれた。
「二人とも気を付けてね!」
「行ってきますです!」
「レイチェルさん、感謝いたしますわ」
地上に向かって声を張り上げてから、通路を爆走する。
内部にはもうスルーア達の姿はなく、静まり返っている。
ステラは、馬のタテガミを力いっぱい握りつつ、この状況について推測した。
オベロンの胸に嵌る石がダンジョンの核で、現在の戦闘に全ての力が集まっているなら、ダンジョンがスルーアの生成をやめてしまっているのかもしれない。
とんでもない速さで走る馬は、古のアイテム士の部屋を通り過ぎ、さらに奥へと進む。そして、ステラが乗り物酔いでヘロヘロになってきた頃合いに、唐突に目の前が開けた。
「これは……」
「池? いいえ、湖ですわね」
段々畑のように階段状になった岩々に、天井から垂れ下がる鍾乳石。
複雑な造形美を描く岩は、大量の水をたたえ、水流を作っている。
間違いなくここは、先ほどキキョウが口にした地底湖なんだろう。
「キキョウさんは、ここの壁が薄いのだと言っていました。オベロンはこの辺から来たはずで……。……あ!」
岩の柱で分かりづらいが、右手側の奥の方から、青白く光る術式が見えていた。
「術式の先にオベロンが封印されていた場所があるはずだな」
追いかけて来てくれたアジ・ダハーカが先んじて、そこへ飛んでいった。
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