対オベロン

 コリンの話を聞いたところ、宿泊施設内で彼とレイチェルの間でちょっとしたいさかいが起こったようだ。どちらが先にステラを探し出せるかどうか、という内容だったみたいだが、知らないところで争いの原因になったと知り、微妙な気分になる。


 レイチェルはコリンを出し抜く形で宿泊施設を飛び出し、ステラを見つけたら、何事もなかったかのように連れ帰りたかったらしい。

 そうするとコリンが悔しがるとかなんとか……。

 目的が果たせなかったからなのか、レイチェルは少々不貞腐れている。


 彼等の気持ちは勿論有りがたいものの、ステラとしては、まだ地下に居る相棒の安否が気になり、言い争う彼等に構っていられる心境ではない。

 恐らく、アジ・ダハーカはオベロンと戦闘しているだろう。

 力量差を思えば、倒されてしまっていても不思議ではない。


 ステラはゾッとし、大穴へと走る。

 後ろから、レイチェルやコリンの焦ったような声が聞こえたが、無視する。


(アジさん。無事だよね?)


 穴の淵まであと少しのところで、地下から不穏な轟音ごうおんがした。

 ゴォッ!! と、ステラの目の前に立ち昇ったのは、一本の火柱だ。

 その威力は空に浮かぶ雲にまで達する程。

 周囲の気温が一気に暑くなり、ステラは茫然とする。


 そうしていると、足元にコロリと何かが転がる。

 傷ついた小さなドラゴンが、火柱に打ち上げられ、地面に落ちてきたのだ。


「アジさん!!」


 大急ぎで彼に駆け寄り、頭からポーションをぶっかけ、口にも小瓶を突っ込む。

 胸が上下しているから、命があるのは確かだが、ここまでいたぶった存在が憎くてたまらなくなる。


「うぅぅ……。必ずかたきをとるんです」

「……おい。儂はまだ生きている……ぞ。言葉を、正せ」

「意識が!」

「あぁ……。ここから、離れるんだ。ティターニアにこの事を……。むぅ」


 話の途中で、彼は地面に開いた穴の方へ視線を投げた。


 そこに誰が居るのかなんて、わざわざ確認しなくても分かった。

 地下からアジ・ダハーカを追いかけて来た者だ。。


 ステラは小さなドラゴンをギュムッと胸に抱き、後ずさる。


「アジさんをよくも……」

「子供のドラゴンのわりに、長く時間を稼げたな」

「同じ目に合わせてやるんです!」

「はぁ……。私は一国の精鋭部隊を幾つも壊滅させたバケノモノなんだがな。君の様なか弱い子供がどうやって戦うつもりなんだ?」


 馬鹿にするように、男は笑う。


「……無策で言っているとでも思ってるですか?」

「ステラよ。逃げるんだ」

「やだもん!!」


 いくら相棒の言葉とはいえ、ここは引き下がれない。

 逃げてしまったらきっと、後でから思い出し、ベッドの上でゴロンゴロンと転がって悔しんじゃいそうだ。


 軽く呼吸を整え、胸ポケットから小瓶を取り出す。


「まともにやり合っても勝てない事くらい、アナライズしなくても分かってます。でも、私はアイテム士! やりようは幾らでもありますよ!」

「アイテム士だと?」

「です!」


 小瓶のキャップを親指で弾き飛ばし、魔法で新薬の水球を作り出す。

 オベロンの眼球目掛けて投げつければ、彼はいぶかし気な表情になった。


「まさか、嫌がらせか? 馬鹿げている」

「むふふ……。【効能反転】! 【効能倍加】!!」


 ステラがアビリティを使用すれば、オベロンは笑い出してしまった。


「ク……アハハハ!! 何だこれは。石の所為で不調だった体が嘘の様に楽になるぞ! 戦闘相手を回復するとは、意味が分からない! 頭が悪いのか!?」

「笑っていられるのは、今のウチだけなんです!」

「……ほぅ?」


 彼に施したのは、明確な弱体化だ。

 こちらが受けるであろうダメージを最低限にまで落とし、ジワジワと削り切りたいところだ。攻撃を開始すべく右手をオベロンに向けようとすると、第三者から声が上がった。


「ステラさん! 貴女の意図が分かりましたわ! 私と近衛達も戦いますから、その薬を私達にも下さいませ!!」

「で、でも……」

「あの程度の苦痛、耐えてみせましてよ! 早く!」


 付き人が悲痛な叫びを上げながらエルシィを止めようとしているが、彼女は可哀そうな少年を蹴り飛ばして黙らせる。その表情は明確な決意が現れていて、ステラは彼女と一緒に戦いたくなってきた。


「分かりましたです! エルシィさんを回復するので、攻撃してください!」

「任されましたわ!」



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