第18話 エスコート

「はい、優ちゃんは助手席ね。頭、気を付けて。」

 なんだか柄に合わないエスコートをしてくれた彼は、助手席に私を乗せた後、運転席へと周りこみ、なれた手つきでシートベルトを着ける。

「よし、それじゃあ。行きますか。行先はサクラノだよ。」


 サクラノといえば、この近辺で一番大きなショッピングモール。休日には家族連れに大人気な施設だが、私の家からだとなかなかに距離があるので、行ったことはない。


 車を走らせ、目的地へ向かう。家に今何があったか、部屋のレイアウトはやっぱりどうしようか、そんなことを考えながら窓の外を見ていると、陸君が話かけてきた。

「優ちゃん、いつものみんなの様子はどう?壮太とか溺愛だよね。尚から話には聞いてたけど、今日実際見てたけどあそこまでとは思わなかったなぁ。武人、拗ねてない?」

「壮太君の距離はいつもあんな感じで、武人君は…お察しの通りです。」

「やっぱり~?そうだと思った。まぁ、壮太だもんな、武人のことは一番分かってるだろうから心配はないな!」


 赤信号で止まった瞬間に、陸君がこっちを向いて、ウインクを飛ばしてくる。どう反応しようかと悩んでいたが、陸君は私の反応なんて全く気にしていないのか、そのまま話を続けた。

「侑依とかも最近すごい楽しそうにしてるんだよな。優ちゃんが来てからだよ。あいつ、もともとあんな性格だけどさ、さらに楽しそうにしてる。友達が増えてうれしいんだろうな。」


 信号が変わり、再び動き出す車の中で、いつも見ているおちゃらけた表情とは別の微笑みを浮かべた顔で、壮太君は話している。


「瑞樹も尚も、顔合わせれば、優ちゃんの話してんだよ?みんな揃って面白いわ。先輩としても兄貴としても安心だわ。これからもあいつらをよろしくな。」

 先ほどとは違い、前を見つめたまま話す陸君。なんだか視線だけでなく空気も変わったようで、返事をするのがためらわれた。


 そしてそのまま目的地へと進み、

「到着!」

 今日の目的地、サクラノへと到着したのだった。


「優ちゃん、どこから見るの?俺は本当についてきただけだから、好きにみていいよ。」

 なんだかさっきからキャラが違う陸君。特に私いつもと違うせいか、とても調子が狂う。私を引っ張りまわす訳でもなく、本当についてきてくれるだけらしい。

 そんな私の「意外」とでも書いてありそうな顔を見た彼は何かに気づいたように話し始める。

「そんなに驚かなくても(笑)侑依じゃないんだから。お兄さんはただついていきますよ?お嬢様??必要とあらばお手を取ってエスコートも可能ですが?」

 …やはり、キャラは変わっていなかったようだ。


 エスコートの申し出を丁寧にお断りして、私たちはお店の中へと歩みを進めた。

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