第9話 姫

「優ちゃん!よかった無事だ!」

空いたドアから最初に顔を出したのは、門馬さんだった。私を視界に入れると安心したようにへなへなと座り込んだ。


その後ろから、瑞樹君がやってきた。優しく微笑みながら、私のもとまで向かってくる。

「なんともない?」

私の目の前に来て、目線を合わせるようにしゃがむといつもの優しい声で聞いてきた。距離の近さにドキリとしつつ、しっかりとうなずいて答える。


私の返事もホッとしたような顔を浮かべ、穏やかに頭をなでた後。

…私から目をそらす、ほんの一瞬。彼の瞳から、笑顔が消えた。

考えすぎかと彼の顔を覗き込むと、そこには笑顔があった。しかしいつものような優しさはない。そして瞳の色は真っ黒に染まっていた。


漆黒な瞳は、今回の犯人であろう、茶髪の彼を映しだしていた。

ゆいたちの登場とともに私から離れ、奥の机に座っていたのだ。

その後ろには奏斗さんが立ち、さっきとは別人のように静かにことのなり行きを見守っている。


「ねぇ、園田さん。説明してよ。」

困ったように話す、目の前の彼。その瞳の色は真っ黒なままだ。

「いくら陸君といっても、さすがに何もなしに許されたことじゃないよ?」

そんな彼の後ろにやってきた壮太君もまた、冷酷すぎる瞳を陸君へと向ける。



「何か?試しただけでしょう?」

さっきまでの心配そうな顔は消え、悪びれるそぶりもなく陸君が答える。

「お前らさ、なんだか楽しそうに最近過ごしてるみたいじゃない?」

「そりゃ、平和だもん。いいじゃんか。誰にも迷惑なんてかけてないし、問題ないでしょ?!」

小馬鹿にしたように笑う陸君に向けて、入り口に座り込んでいた門馬さんが言い返す。


「そこが甘い。」

感情をむき出してきた門馬さんを、陸さんの後ろで待機していた奏斗さんが言葉で制す。無表情のまま淡々と言葉を飛ばしていく。

「その子。優ちゃん?だっけ?なんで一人にしてるの。」

「それは俺らとは関係ない子だから。」

壮太君の言い返した言葉にチクりと胸がいたむ。


「どういう経緯であの部屋に入れたのかは知らない。でも、そんな情報なんて一晩で簡単に広がる。お前が一番わかるよな?壮太?」

「…この子は俺らの『姫』でも何でもない!」

「だから?そんなのお前の認識にしか過ぎない。」


珍しく余裕をなくす壮太君に容赦なく、奏斗さんは厳しい言葉を向ける。

「傍から見たら、この子はどう見てもお前らの『姫』だろうが。お前らを潰したい輩なんていくらでもいる。そいつらにこの子の存在がばれたら?…わかってんだろ?」

「…っ」

壮太君の顔が悔しそうにゆがんだ。


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