第8話 謎のチャラ男

ーあれからどれほどの時間が過ぎたのだろう。まだふわふわした感覚が残っている。


目を開けるとどこかのオフィスのようなところにいることが見て取れた。この部屋に私以外の人はいないらしい。

ソファーの上に寝かされていて、少し腰がいたい。体勢を変えようともがくが、薬の影響か体が思うように動かない。


あんな薬現実にあるのか、なんて考えながらもぞもぞと動いていると、ドアの開く音がした。


「あ、目ぇ覚めた?」


先ほどとは違うスーツを身にまとった彼が私の顔を覗き込んできた。着ている服は違ってもチャラそうな雰囲気を身に纏っているのは変わらないらしい。


「体痛くない?ごめんね、横になれそうなところソファー以外になくて。」

「大丈夫です。」

気にするのはそこかと心の中で突っ込みながらかろうじて出たかすれた声で答える。

いまだに心配そうな顔をして、私を見ているこの人は何なんだ。そんなに心配するならもとから誘拐なんかしないでほしい。


「S!M!O!園田!」

謎の歌が突如として聞こえドアが開く。現れた彼は私を見つめるこの人の知り合いらしい。


「おぉ、奏斗お帰り。」

私を見つめたままだった誘拐犯が顔を上げて会話を始める。

「陸くん、ただいま♡って何?距離近すぎる。離れて。」

束縛が激しい恋人のようなセリフを吐いたその人は、なぜか私をにらみつけながら近くに寄ってきた。しかし、今陸と呼ばれた誘拐犯は気にも留めずに私を優しく支え、横になっていたソファーに座らせてくれた。


「手荒な真似してホントにごめんね。怖かったよね?」

私の頭をなでながら申し訳なさそうに謝るこの人は、そしてなでられる私を見てさらに私をにらんでくるこの人は、この人たちは何者なのだろうか。


「もうちょっとだけ我慢してね。もう少しであいつらが来るはずだから。」

意味がわからない、誘拐をしておいてほかに何かをしてくるわけでもない。この人たちの意図が全く読めない。そしてひたすら私をにらんでくる奏斗という人を何とかしてほしい。


…コンコン


誰かがこの部屋のドアをノックする。

「あいつらが到着しました。」

そのドアは開かずに外から声がした。


「お、来たか。時間はまあまあ合格かな。壮太はやっぱりやるな。」

チャラさ全開のこの人から、聞き覚えのある名前が聞こえてきて、さらに私は困惑する。

それからものの数十秒でドアの向こうが騒がしくなった。


バンッ!!!!


大きな音を立ててドアが開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る