第6話 今日限り。

「今、ここで選んでほしいことがあるんだ。それは、これから俺たちに守られながら過ごすか、今日限りの出会いにして俺らとは縁を切って過ごすか。」


 ーただゆいについて来た。それだけでこんなにも彼らに迷惑をかけるなんて思ってもみなかった。そしてこれから彼らの負担を増やさない方なんて考えるまでもなかった。


「今日だけです。」

 そう壮太君に伝えると、彼は少しホッとしたような表情を見せて、先ほど入ってきたドアを開けた。


 プリンに群がっている彼らのもとへ戻ると、

「あ!優ちゃん!プリンなくなっちゃうよ~!」

「壮太君!見て見て~!」


 ゆいが声をかけてきた。門馬さんは私には目もくれず、壮太君に構ってもらいたいようだ。

 そんな様子を見ていると、


「佐野瑞樹。瑞樹でいいから。」


 不意に横から誰かが声をかけてきた。


「鈴谷優です、瑞樹君って呼びますね」

 さっき、壮太君が生徒会長って言ってた人だよな、と記憶と照らし合わせながらそう答えると、

「ん。」

 彼はうなずいて、壮太君のもとへと行った。


 みんながいて楽しそうなゆいからプリンを受け取り、ふたを開けようとしていたところ。

「むー。瑞樹に壮太君とられた。」

 口をへの字に曲げた門馬さんがプリンのもとに戻ってきた。

「え!武人くん、まだプリン食べるの?」

 ゆいが驚きの言葉を漏らすなか、門馬さんはおいしそうにプリンを口に運んでいた。


「あの、鈴谷優って言います。」

 おそるおそる声をかけると、

「あれ?挨拶してなかったか!ついプリンに夢中で、ごめんね~俺、門馬武人。よろしくな~!」

 にかっと笑った門馬さんはまたプリンを口に運びだした。思っていたほど怖くない?と私は目をむいていた。そんな私にゆいが話しかけてきた。


「ねぇ、優ちゃんはいくつなの?さっき俺に同い年くらいって言ってたけど、高校生?」

「私?16だよ。高2。」

「え!じゃん!!じゃあ高校は??」


 今日限りの付き合いとさっき壮太君と約束した以上、あまり教えるのもよくないと思い、それ以上はごまかした。



 にぎやかな時間はあっという間に過ぎ、


「あ、もう外暗いじゃん!優ちゃんあんまり遅くなっちゃまずいよね。」

 誰かがそう言ってこれでお開きとなり、みんなバラバラと帰っていった。

 ゆいはこの後用事があるらしく、名残り惜しそうに帰っていった。帰り際渡された彼の連絡先が書いてある紙はポケットの奥にしまっておいた。


 私はというと、暗くて危ないからと壮太君が家まで送ってくれると申し出てくれた。


「それじゃ、俺らも帰ろうか。」

 ドアからでていく壮太君を追って出ようとすると、ぽつんと残っている人がいた。

「瑞樹君は帰らないの?」

 彼に声をかけると、彼は微笑むだけだった。これ以上聞いてほしくないという雰囲気も含んでいて、私は先を歩いている壮太君を静かに追いかけることしかできなかった。

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