第9話 接近遭遇
翌日、日米の空母は、ひとまず進路を北に向けて進んでいた。
さすがのプロフェッショナル集団の艦隊とはいえ、どこか疲労感の漂う雰囲気は隠せないようだった。
そうして、またしてもレーダーが、艦に接近する飛行物体を捉えた。乗員たちに再び緊張が走った。
「飛行物体が接近!」
「数は?」
「四機」
「あれだけやられて、まだやる気か? よし、スクランブルを出せ。防空ミサイルは要撃準備」
事態は、起床したばかりのフランクリン艦長にも、すぐさま報告された。
「艦長、いかがします?」
「昨日と同じ様子だとすると、撃墜は容易かね?」若干、ため息混じりのようすで聞き返した。
「ええ、昨晩と同程度のレベルなら、勝敗はすぐに決まるでしょう」
「できれば、直接この目で、間近で相手の姿を確認したいところだよ」
「本気でおっしゃいますか? 艦長」
「どうだろうね……とにかく、偵察機はもう出たのだろう?」
「はい。じきに映像も入るはずです」
「よろしい。とにかくCDCに向かうとしようじゃないか」
とにかく艦長は、部下とともにCDCへと向かった。
すると、艦長が入ってしばらくしないうちに、偵察機からの通信が入ってきた。
「相手が見えた」
「どんな様子だ?」
「先日見たのと、似たようなものが飛んでますよ。ただ、今回はド派手なカラーリングです。まるで第一次大戦のエースパイロット機、って印象ですかねぇ」
続けてカメラからの映像が、CDCのスクリーンの一つに映し出された。
四体の巨大ロボは、ダイヤモンド編隊で飛んでいた。前回に遭遇したものとはまったく違った見た目だった。
曲面を多用して作られたデザイン。先頭の一機は、赤を基調としてところどころに明るい緑のラインが入ったカラーリングをしており、つづくほかの三機は、明るい青色に稲妻を思わせるギザギザした黄色のストライプが入っていた。
前日の昼間に見たものとは、明らかに雰囲気を異にしていた。
「なんだか、前回のとは様子が違いますね。どうにも大きさも一回りくらい小さいように見えます」
「通信はどうだ?」
「今回は、なにか応答があります。しかし、内容は不明。こちらに応答してるのかどうかも怪しいです」
偵察機は、通信を続けながら、相手方の周囲を旋回した。
「攻撃はどうします? 相手は一度、なにか構えたが攻撃の気配はない。どうやら混乱しているようにも思われる」
「わかった。こちらに戻ってくれ」
「了解です」
指揮官は次の指示を出した。
「代わりに、無人偵察機を出そう。相手よりも高高度で追跡させてくれ」
いくぶん様子が異なるが、今回の相手もまた、まっすぐと艦隊に向かって来るようであった。いずれにしても、相手を直接視界に捉えられるまで、艦は待ち構えた。
「来ましたね」
「ああ、どうやら相手は有視界でないと攻撃ができないようだね」
「撃墜しますか?」
「もちろんだ。相手がまっすぐ、こちらに突っ込んでくるようなら」
「対空ミサイルの用意、」
「あ、待ってください! 再び無線通信です」
「なに?」
「内容は不明です。ただ、なにか呼びかけを繰り返しているようにも思われます」
「飛行物体、速度を落としました。依然、接近中です」
「要撃機は上空で待機。ただし全艦、対空照準は合わせておくんだ」
「了解!」
「通信はどうします?」
「なにか、こちらからも答えてやるか?」
「ですが、何と答えましょうか……」
「こちらの所属を伝えておけ、ひとまず。あるいは、合衆国の国歌でも聴かせてやれ」
「承知しました」
今回の相手は、ミサイルを発射するということもなく、ゆっくりと艦隊へ接近を続けた。
「目標四機は、上空で停止しました」
「こりゃ、すごい……巨大ロボットが上空で直立して浮いてる。いったい、どんな飛行装置を使っているんだ」
巨大ロボは艦隊からおおよそ一千メートルほどの距離、上空百数十メートルに直立不動で浮いているかたちだった。
「フランクリン艦長、どうします?」
「どうにも、前回手合いをしたのとはだいぶ様子が違うな。君はどう思う?」
「といわれましても。私としては、今回の相手は敵意があるようには思えません」
「そうだな。私もどこか、そういうふうに思う」
そうしている間にも、相手に動きが見られた。
「飛行物体、体勢を維持したまま高度を下げはじめました」
「それにゆっくりと、接近してきます!」
「いかがします? 撃墜しますか?」
「いや、待ちなさい!」
艦長は深呼吸した。「これほど近くで相手も攻撃すると思えない。それより通信は?」
「相変わらず呼びかけに反応ありです。ただ判別不明です」
「映像を見てください! ロボットの一つ、人が乗ってます」
誰もがスクリーンに目をやった。
拡大された映像には、巨大ロボの、人で例えるならちょうど頭に相当する部位、その側面から巨大なハッチが開いたような状態が見えた。そして、人が顔をのぞかせていた。
遠くからぱっと見てもヨーロッパ系の顔をしているのが分かった。
双眼鏡で成り行きを見ていた、甲板要員の何人かは、思わず手を振ってみせた。すると相手も、それにこたえるかのように控えめに手を振ってみせた。
「相手がなにか、特使のような役割を持っているとしたら、迎え入れる体制を取った方がいいな」
「はい?」
「着艦できるように、用意しよう」
「本気ですか?」ジェルマン指揮官は思わず聞き返した。
「たぶん、このままでも相手は、勝手に飛行甲板に着陸するだろう」
正体不明の巨大ロボの着艦準備が直ちに開始された。
不要な人員は、全て艦内に退避させ、万が一に備えて上空を飛んでいる戦闘機はもとより、展開している主砲もCIWS機関砲も、相手に照準を合わせたままだった。
巨大ロボは全高が二十メートル近くあるのではないかと思われた。
「通信の様子が変わりました。ただ、依然として内容自体は不明」
「おそらく、着艦許可を求めているのではないだろうか」
フランクリン艦長はいよいよ決断を下した。
「よし、彼らを迎え入れよう」
「ですが、艦長。それでは着艦用の甲板を占領してしまいますよ。飛行中の機体の収容する場合は?」
「海上自衛隊の空母〈とさ〉と連携を取るようにしなさい」
それからまもなく、四体の巨大ロボは音もなく、静かに飛行甲板に降り立った。
「ほらきた、いよいよ未知との遭遇だ」
誰かかがつぶやいた。
巨大ロボからパイロットと思われる人が顔をのぞかせると、ハッチから全身を乗り出した。それから慣れた様子で壁面を伝い、下まで降りてきた。どうやら各所に昇り降りのための小さな溝や突起が作られているようだった。
巨大ロボから出てきたのは各々一人ずつで、どうやらその乗り物は一人乗りと思われた。
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