第10話 対面、交錯
ガネット大佐は訝しく思った。
上空から眺めた、艶のない灰色で塗られた大きな二隻の船は、一見しただけではリヴラーガ軍を連想させた。が、明らかに、考えられる常識を逸脱していた。
まずはその大きさ。甲板に見える人の姿からするに、いずれも小島ほどの大きさがある。そして、完璧とも思えるほど真っ平らな広い甲板。いったいどこで、誰が作り上げたというのだろうか?
さらに、ところどろに、黒っぽい奇妙な形の鳥のような、大きな物体が置かれている。あれはここに来る途中に、自分たちの周囲を旋回した飛行物体のように思えた。
そして、これほど大きさの船にもかかわらず、帆がどこにも見当たらない。帆が無いというのに、いったいこの船はどうやって海を進むというのだ!
そして、これらの船に掲げられている旗は二種類あり、一つ目は赤白の
いずれにしても、青、緑、黄を基調として水色のラインと濃紺の縁取りがあるリヴラーガの国旗とは、似ても似つかないものだった。
ガネット大佐たち四人は、慎重に接近した。いつでも急上昇して、付近から離脱できるよう直立状態を維持した。
チャフィーが声を出した。
「ガネット大佐、私がコックピットから出て手を振ってみせましょうか? こちらが敵意を持ってないと、それで理解してくれるかもしれませんよ」
「本気か?」
「でも、いつまでもこうして、睨み合いみたいなことを続けるのはよくないでしょう?」
「うむ。しかし……」
「大丈夫ですよ」チャフィーは含み笑いで続けた。「なにかあれば、すぐにでも海に飛び込みます。それで、泳いで帰りますよ」
「分かった。気を付けてやってくれ」
「了解です」
「よくやるぜ」「気を付けてね」
チャフィーがコックピットの横から上半身をのぞかせて、外に向かって笑顔で手を振ってみせた。
すると船の甲板に見える人達も、幾人かが手を振り返した。遠くて表情までははっきり見えないが、どこか安堵の雰囲気があるようにも感じられた。
「どうやら、どうやらチャフィーの博打は上手くいったみたいだ」
「そうだな。ひとまずは、相手に敵意が無いだろうことは分かった」
しばらくするとその甲板上に、なにか誘導をするかのような素振りをみせる人たちの姿が目に付いた。
「ガネット大佐、いかがしますか?」
「よろしい。私が先頭に立つ。あの船に着陸する」
* * *
四体の巨大ロボットは、きれいに横並びに甲板上へ着陸した。
「いよいよ、未知との遭遇というわけだね」
フランクリン艦長以下、士官数名と飛行甲板の要員が一堂に整列し、敬礼をして出迎えた。
巨大ロボから出てきて甲板に降り立った四人は皆、戦闘服というよりは、将校や軍幹部が儀礼用に身に着けるような服装をしていた。そのカラーリングやデザインは巨大ロボに合わせてあるようだった。後は、ヘルメットのような大げさなヘッドセットを手にしていた。おそらくロボットの操縦に使うものであろうと思われた。
四人の中の一人はロングヘアをきれいに束ねており、明らかに女性と分かる容姿だった。
とびきりの美人というわけではなかったが、整った顔立ちからすれば、彼らの世界でもモテる方ではないかと思われた。
離れたところからみていた甲板要員は小声で言った。
「おい、あれ見ろよ。ありゃ驚きだ、あのでかいロボットには女性パイロットもいるとみえる」
「ほーう。なかなか美人じゃないか?」
しかし、対面の瞬間は長くは続かなかった、またしても艦内に警報が響いた。レーダーが、一機の飛行物体をとらえたのだ。
* * *
突如、周囲にいた人達があわただしく動き始めたことに、ガネット大佐は訝しく思った。
それぞれに青や赤、黄といった目立つ色のジャケットを着た人たちがきびきびと動き出す。
なにが始まるというのだろうか?
大佐は、おもわず周囲の空を見上げた。もしかしたらリヴラーガ軍の部隊でも現れたのかと考えたが、彼の見える範囲には鳥すら飛んでいなかった。
それから、黒い大きな鳥のような物体に人が乗りこむようすを見て唖然とした。おそらく、どのティテーノよりも、はるかに俊敏かつ高速に飛び回ると思われるあの物体は、人が乗って動かしていたというのか? ほんとうに、あんなものに人が乗って、操縦に耐えられるというのか?
そして、その物体はとんでもない轟音を鳴らし始めると、ゆっくりと移動した。その音は耳を塞いだとしても、脳天を揺らさんばかりに思えた。
さらに大佐は自分たち四人以外の、この船の乗員たちはまったく轟音など気にもせず、きびきびと動き回っているようすにも驚いていた。
これから、どうやって飛び立つのだろうかと大佐が思った直後、突如としてその物体は勢いよく加速し、海へ向かって投げ出されると軽々と空へと飛び立った。
さすがの大佐も度肝を抜かれた。少々のことでは顔色一つ変えることなく動じないはずの表情は、少しひきつっていた。彼は横に並んでいる部下の顔に目をやると、彼らは目を見開いて呆然とした表情をしていた。
大佐は、この船の乗員たちに目を向けた。彼らのようすをみるに、これは彼らに取ってはごく普通の光景なのだろうか? と考えた。
チャフィーがそっと大佐に言った。
「ガネット大佐……いったい、この船の連中は何者なんでしょうか?」
「まだ分からない。ただ、敵に回すようなことは、賢明でないだろね」
* * *
リヴラーガ軍の生き残った一機のリーゼが、強硬偵察のために撮影手を乗せて、戦場となった海域へ再び向かっていた。
パイロットからしてみれば、戦闘もままならず、命からがらというところで逃げ帰ったが、またしても偵察を任務に再出撃を指示を出されてはかなわなかった。
もっとも、戦闘中に逃亡したことを咎められて営倉送り――あるいは最悪の場合に銃殺刑――にされるよりは、マシなのかもしれなかったが……
リーゼの機体には、救護や偵察のために非武装であることを示す、青丸地に白色のバツ印――地球で言うところの赤十字や緑十字の表記に相当する表記――が大きくペイントされたていた。手書きの即席で描かれたもので、まだそのペンキは完全に乾いてもいなかった。
しかしそこには、日米両空母から発艦した戦闘機が上空で待ち構えていた。リヴラーガ軍のパイロットはそれに気づくと慌てて速度を落として反転しようとした。
「おい、バカ! 何やってんだ。写真が撮れないだろ!」
撮影手は大声で怒鳴るが、パイロットはすかさず反論する。
「敵は待ち伏せていたんだぞ。攻撃されたらたまったものじゃない」
そのうえ命令には、可能ならば敵の姿を間近で撮影しろ、というものだった。それでもパイロットにとっては、すぐにでも逃げ出したいところだった。
「ふざけるなよ。非武装マークは機体に描いてあるだろ! そう簡単に相手が攻撃してくるはずない。それに任務放棄は大罪だ。俺まで営倉送りになるなんてことは御免被る!」
「あんたは知らないんだ。攻撃されて死ぬよりマシだって」
そのあいだにも、轟音ととともに両脇を飛行物体が追い越していった。
「うわ! なんだありゃ」
「ほら来た! 次は猛高速の一撃が飛んでくるぞ」
「けっ! それより俺は偵察写真に命かけてんだよ。だったらその姿、撮って帰るさ」
「おいおい、このリーゼが海に落ちたら、どうやって帰るのさ?」
「泳いででも帰るよ。さあ早く、向きを調整してくれ。敵の船に接近するんだ」
「分かった」
パイロットの不安をよそ目に、相手の飛行物体は攻撃をしてくることはなかった。
そして偵察の撮影は、これまでにないくらい手早く済ませると、限界いっぱいの早さでその場を去った。
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