締章
エピローグ
「社長、今回発表された『知識の館』で、世界がどのように変わるとお考えですか?」
記者の一人が訪ねた。マイクを向けられた女性は、はっきりと答えた。
「我が社の『知識の館』はクラウド型学習システムです。皆さんは、これから先、追加でナノマシンを投与することなく、『知識の館』へアクセスするだけで知識を得ることができます。そのため、今後、電霊のようなナノマシン障害が起こることはないと考えています」
その後、形式的な質疑応答をいくつか繰り返して、彼女は解放された。この日、クラウド型学習システム『知識の館』の正式稼働が発表された。実際に運用されるのは、半年後になる。それまでに、学べる知識の拡張や、動作を登録したい会社、その他、やるべきことは山程ある。
会見を終えたスミレはまっすぐ、社内の自室へ戻った。
未だ、仮想空間上で会見できる設備が整っていないのが不便で仕方ない。今後の開発内容へ組み込もう、とスミレはナノマシンに働きかけ、それをリストにそれを加えた。
その後、しばらくの予定を確かめ、今日の予定が全て片付いたことを確認する。
「よし」と、頬を叩くと彼女は途中であった部屋の片付けを再開した。紙を好む彼女は、自身の計算用紙などは紙で運用し、書き終わったものを必要があればナノマシンでスキャンしている。
定期的に掃除しなければ、部屋が紙で溢れてしまう。スミレは必要なくなった計算用紙をごみ袋へ詰めていく。溜まったごみ袋は部屋の片隅に置いておけば、秘書が回収場まで運んでくれる。
ひと通り片付けを済ませると、彼女は社長室の一角へ歩み寄った。ガラス越し、特殊な機械に繋がれた人を眺める。それは電霊となり、現実世界で身体を動かすことの出来なくなったトワの姿であった。
スミレがそのガラスに触れると、彼女の視界に仮想画面が表示された。スミレは久し振りにそれらを操作して、彼へ繋げる準備を進めた。
「あなたはいま、どんな世界を見ているのかしら」
知識の館 天音川そら @10t
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