知識の館 3

 海面に反射した夕陽が眩しい。トワは左手を上げて、視界の一部を塞ぐ。

 そこは、薄暗い図書館の地下室などではなかった。

 見慣れた、トワの家の近くにあるバス停であった。岩を打つ波の音、遠くから海鳥の泣き声が聞こえてくる。

 ふと、トワは海と反対側視線を向けた。小高い丘の頂上の一角に焦点を合わせる。しかし、そこにあったはずの建物は何ひとつなかった。

 バスが一台、流れてきてトワの前で停車する。

 扉が開き、ひとりの少女が降りてきた。それは中学の制服に身を包んだ永遠の妹、サクラであった。彼女はトワを一瞥すると、「兄さん、まだ夢を見ているのですか?」と言い、踵を返して立ち去ってしまう。

 彼女を呼び止めようとするが、次に降りてきた人物に遮られる。

「やぁ、少年」肩のあたりで髪を切りそろえ、ピンクゴールドの眼鏡を掛けた、少し大人びたアヤが立っていた。

「先輩」そういうトワに、彼女は微笑む。「結局、少年はその身を機械に委ねることにしたようだね」

 アヤもまた、踵を返しバスの陰へと消えてしまう。違う、と否定したかったが、電霊と化したトワにそれを否定できるのだろうか。

 悩み、アヤを引き留めようと中途半端に持ち上げたトワの腕が空を切る.

 その腕を掴む者がいた。

 アヤに続いて降りてきたスミレだ。空いた方の手で青いアンダーフレームの眼鏡の位置を調整し、真っ直ぐにトワの顔を見つめる。栗色の髪が彼女の頬に掛かる。

「キミが賢いのは認めるわ。でも、もう少し現実にも目を向けなさい」今にも泣きそうな顔をして、スミレはそう言うと、サクラやアヤと同じようにバスの向こうへと消えてしまった。

 最後にもうひとり、バスから降りてきた。

 夕陽に黄金色の長い髪が反射する少女が降り立った。彼女を下ろすと、バスはその扉を閉ざした。赤いアンダーフレーム越しに見える彼女の瞳をトワは見つめる。

 ユイもまっすぐにトワをみた。「わたしが——」そのとき、軽い発車音と共にバスは走り出した。バスが走り抜けると道路を挟んだ反対側に、サクラ,アヤ,スミレの3人がいた。

「いえ、わたしたちが、あなたも含めて、人に見えますか?」

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