幕間〜ヒトの記憶って〜
「ヒトの記憶って、どの程度堅牢なものなのか」
唐突にスミレが問いかけた。
年内最後の講義を終えた翌日。トワとスミレは部屋の掃除をしていた。軽い掃除は定期的にしているとはいえ、ゴミは溜まっていく。部屋の一角には、不要になったもので一杯になったごみ袋が積まれている。
窓を掃除しつつ、退屈凌ぎにスミレが問いを出した。
「まさか、ナノマシンを使って記憶を改竄しようとしているんじゃないだろうな」トワが言うと、アヤが苦笑する。「まさか、そこまで素っ頓狂なことはしないよ。むしろ、そう言うことをやりそうなのは、キミの方だと思うけど?」
窓越しに意地悪そうな表情を浮かべたスミレがトワを見つめる。
「議論をするのは構わないけど、掃除の手を止めるなよ」トワは溜め息混じりに言った。
10畳ほどのスペース、トワはあまり時間は掛からないと思っていたが、スミレが途中で投げ出そうとするのを止めるのに必死で既に8時間以上が経過している。
「案外、単純で、それでいて堅牢なものじゃないかな」
彼女の問いにトワは真面目に答えた。
「なるほど。で、その根拠は?」スミレは面白そうにトワの方へ顔を出す。
トワは手を止めるな、とひとつ注意してから答える。
「仮に、偽りの記憶を植えたとしても、最初は全く疑問に思わないだろうし、なんとも感じない。でも、何かの表紙に、その記憶を疑ってしまうと、すぐに気付かれてしまうと思うよ」
スミレは窓を拭く手を止めずに、「なるほど、なるほど」と何度も頷く。
「だからもし、スミレが誰かの記憶を改竄しようとするなら、背景を含めて慎重にやる必要があるよ。それこそ、世界を一から作るレベルの改竄がね」
実際、世界を一から作ることも難しいだろう。人は神でないのだから、全てを創っても何処かで綻びを生んでしまう。もしかしたら、この世界を作った神でさえ、世界に綻びを残しているのかもしれない。
「だから、何でわたしが改竄すること前提なのよ」スミレが頬を含ませた。
トワは肩を落とす。「どうせ、掃除し終えた記憶を今すぐに僕へ植え付ける方法を考える為の暇つぶしだろう?」
「そこまでいう!? そこまで、わたしは信用ならないの?」
軽い怒りを剥き出しにするスミレに、トワは頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます