鳩森図書館 3
敷地の中は想定していたよりもずっと広かった。長いこと手入れされていなかったのか、雑草が自由に生え、歩くことが困難といえる状況でさえあった。
トワとアヤ、そしてユイは並んで歩いた。
しばらくして、図書館の入り口と思しき場所に到達した。かつての自動ドアは機能をなくし、ドアは壊れ、開け放たれていた。
「入りますか?」
ここにきて一番乗り気なのは、ユイであった。
「ここまで来たら入るしかないだろう」アヤが納得したように頷き、ひとり先に中へと入っていく。
あっ、とトワが止めようとしたときには彼女はドアをくぐっていた。
「あの先輩、意外と度胸がありますね」トワの隣に立つユイが感心したように言った。
「あれは度胸があるんじゃなくて、単なる命知らずって言うんだよ」トワは呆れたように肩を落とし言う。そして、彼女の目を見て言った。「僕らも入ろうか」ユイは無言で頷いた。
トワとユイはゆっくりと洋館の中へと入った。
建物の中はホコリぽかった。ユイはすぐに咳き込み、ポケットから取り出したハンカチで口元を覆う。「これはなかなか強烈ですね」
トワも袖で口を覆い、同意する。「30年以上前の建物なら仕方ないと思うけどね」
埃が待っていることを除けば、普通の廃墟であった。
中央エントランスは3階まで打ち抜かれた吹き抜けになっており,天井が高い。その壁に掛けられた大きな時計は動きを止めている。よく見ればその分針と時針はの先端は鳥を象っている。文字盤はよくあるローマ数字で刻まれていた。
エントランスから大きな階段が伸び、二階部分で左右にわかえれていた。
「どちらに行きますか?」ユイがトワに確かめる。
「左にしよう。右は先輩が行ったみたいだ」トワは床を眺めていった。丁度、ホコリを踏み締めた人の足跡が伸びていた。
ユイが不安そうに確かめる。「放っておいて良いんですか?」
「先輩の身に何かあるようなら、僕らじゃどうしようにもできないことだと思うよ」
実際、トワは彼女は大丈夫だと思っている。彼の中には数年後就活に苦しむアヤとの記憶があるのだから。ここが過去のものであるなら、彼女の身に何か起こるということはあり得ない。それがトワの考えであった。
「でも……」と、何かを言いたげなユイを置いてトワは左手に進んだ。その後ろをユイが慌てて着いてくる。
トワは図書館、というものに入るのが初めての経験だった。社会インプラントが普及する以前の時代を描いた小説には幾度となく登場する。国語の教科書にもその時代の小説が載っていた。
紙の本を借り、読んだら返す。
そういう人の往来の絶えない場所、とトワは聞いている。閲覧スペースや自習できるようなスペースもあるそうだ。
案内板があったが、崩れて読めない。
仕方なく、トワは中を進んで様子を確かめていく。
壁一面を覆う書棚は、どれも書籍を入れていない。寂しいだけの空間が立ち並んでいる。
「ユイは図書館に行ったことはあるの?」周囲を警戒しつつ、トワは彼女に尋ねた。
「一度だけ、あります」ユイが答えた。「前は随分と大きい街に住んでいたので」後から補足するように言った。
「へぇ。そこもこんな感じだった?」トワが尋ねると、ユイは首を振った。「こんなに広くはなかったですね。書棚もありませんでしたし」
ユイの話によれば、今の図書館は書棚を一般においているところは少ないという。多くは閉架書庫、すなわちそうこのようなところで管理しているという。
一般公開されるのは、複写は蔵書が豊富にあるような紙書籍のみ。それも蔵書しているところは減ってきているという。
「随分と詳しいね」トワが言うと、彼女は恥ずかしそうに笑った。「半分は電脳で調べたことですけどね」
それにしても、トワは思う。こうして棚が並んでいるだけの空間はとても不気味に感じられる。正直、昨日は弾かれて良かったと思っている。一人でこの空間を探索する勇気はなかった。
しばらくして、螺旋階段へを見つけた。丁度、上と下の両方に伸びている。トワはユイの方を見た。彼女は少し悩んだ後、上へ進むことを提案した。
特に否定する理由もないので、トワは彼女の提案した上へ進むことへ決めた。
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