この世界は……

 この世界は現実のモノか、それとも仮想のモノか。

そう問われたら、今のトワなら「仮想のモノ」と答えるだろう。

 事実、失われたはずの建物が建っていた。

 事実、ないはずの未来の記憶が克明に残っている。

 ならば、何故この世界を選択したのか。理想の世界を描写する仮想世界ならば、それはトワが望んだ世界である。その問いに対する明確な回答にトワは至っていない。


——もしかしたら……


 と、自身の記憶を振り返り、トワはひとつの憶測に到達する。


——この時代が、最も人として活き活きしていたからではないか、と。


 昨夜の夢が頭から離れず、トワはその日、ほとんどボゥっとしながら1日を過ごした。授業……とはいえ、一度は学んだ内容なので今更聞かなくても分かる。座学はそれでよくても、体育はそういう訳にもいかず、トワは珍プレーを繰り返した。

「今日のお前なんだか、おかしいぞ」と、カオルに指摘され、トワは「そういう日もあるさ」と笑って誤魔化した。

 実際、おかしいのは事実だろう。何せ、未来の記憶を持ったまま今を生きているのだから。

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