第3章 本当に人間なのだろうか?

その身をどちらに委ねる? 1

 木々が赤く彩り始める頃。トワは大学最寄り駅で懐かしい顔を見かけた。

「やぁ、少年。久しぶりだな」

 彼をそう呼ぶ人間は一人しかいない。背丈はトワと大差ない。伸ばしていた黒髪もバッサリと切ってしまったらしい、今は肩にかかるかどうか、という程度の長さしかない。ピンクゴールドの眼鏡を掛けたアヤが彼へ笑顔を向ける。

 スーツを着ているということは、就職活動の帰りか何かだろう。トワの記憶と比べて、今のアヤは随分と大人びて感じる。

「良い加減その呼び方、やめてくれませんか?」トワが小恥ずかしそうに言うと、「仕方ないだろう。この方がしっくりくる」とアヤは笑った。

「今日は、例の彼女は一緒じゃないんだな」

アヤが周囲を見ながらトワに尋ねた。

「スミレのことですか?」トワが聞き返すと、アヤは首肯した。「別にいつも一緒ってわけじゃないですよ。そういう間柄でもないですし」

 トワはやれやれという具合に返すと、アヤは疑う目を向ける。「少年はそうかもしれないが、彼女はそうでもなさそうだぞ」

 相変わらず、アヤはトワを揶揄う。

「そうやって揶揄うために僕を呼び止めたんですか?」溜め息混じりにトワが言った。

「半分正解だが、もう半分は偶々懐かしい顔を見かけたからだな」

 実際、こうしてアヤと会うのは彼女の2年ぶりくらいになる。同じ都会の大学へ進んだとは言え、大学は異なる上にキャンパスも距離が離れている。定期的に連絡を取り合っていたが、それも最近はさっぱりであった。

 アヤが話し掛けなくてもトワの方から声を掛けた可能性は否定できない。

「折角こうして会ったんだ、お茶でもしていかないか?」そう言って、アヤは近くの喫茶店の情報をトワに送った。「構いませんよ。今日は特に予定もありませんから」

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