黄金色の転校生 4
「まさか、クラスまで一緒だなんて。正直驚きました」
その帰り、偶然にもユイと同じバスを待つことになった。朝と違い彼女はトワに対して友好的に接してきた。
「ぼくもだよ」
トワも少し柔らかく接した。
「まさか、ユ——君と同じクラス、というか席まで隣になるなんて」
いきなり、名前で呼ぶのはあれかと思い、トワは名前を言い換えた。
「ユイでいいですよ」と、彼女は言った。「なんだか、そちらの方が呼びやすそうですので」
「では、ユイって呼ばせてもらうよ」トワは少しはにかみそう答えた。
潮風が彼女の髪を靡かせた。夕日、というにはまだ少し高い。海面に反射した太陽が眩しい。初夏の日差しに潮風が心地よく感じる。
「ところで、あなたは何か部活に入っているのですか?」
揺れる髪を抑え、ユイが尋ねた。
「一応、文藝部に属している」トワは即答した。
この日、トワは部活をサボった。サボったと言っても、元から活動自体が形骸化されている。一応、文藝部の活動チャットに入室しているが、彼の他にログインしている人は居ない。
てっきり、アヤは入室しているかと思ったが、それはトワの見当違いに終わった。
恐らく、夜に小言を賜ることになるだろう。
トワは隣に立つユイに気付かれないように小さく溜め息を吐いた。
「今日は休みですか?」ユイが首を傾げた。
「基本的に文藝部の活動に休みはないけど、参加する義務もない。定期的に読んだ小説の感想を共有するくらいかな?」
実際、月に一度は感想共有会を開いている。しかし、参加するのはトワとアヤが中心、時折幽霊部員の何名かが参加する程度。
「あまり、活発じゃないんですね」
「今は何処もこんなもんだと思うよ。運動部はそうでもなさそうだけど」
身体を実際に動かすトレーニングが必要な運動部は活発に活動している。一部の部活は機材がなければ出来ないから当然ともいえる。団体競技となれば尚更だ。
仮想空間でスポーツが出来るほど、インプラント技術は進歩していない。
「そうなんですね。てっきり、もっと積極的に活動しているのかと思いました」ユイが少し驚いたように言う。
「ユイは、前の学校では何か部活とかしていたの?」
トワが尋ねると、ユイは首を振った。「いえ、あまりそういう関係には疎くて」
実は、学校にもあまり行っていませんでしたし……
最後の言葉、ちょうど潮風に流れて消えてしまうかのように思えた。しかし、トワの耳にはその声がはっきりと聞き取れた。「え?」と、彼は首を傾げたが、ユイは何事もなかったかのようにこちらを見る。
「だから、今度の学校では何かしてみようかなぁ、と思いまして」
ちょうどバスがやってきた。
トワとユイはバスへ乗り、自然と隣の席に座る。
「文藝部はどう?」
トワはさりげなく、彼女に文藝部を勧めてみた。
「正直、興味はあります」そう言って、彼女は手にした鞄から一冊の文庫本を取り出した。
随分と古びた紙書籍だ。随分と読み込まれた形跡がある。
「珍しいね、紙の書籍なんて」トワは少し珍しい物を見るようにそれをみた。
実際、文藝部の部室と書店以外で紙書籍をみたことはない。トワの部屋にも家にも、雑誌や新聞を含めて、紙書籍は置かれてはいない。
「古い、って思われるかもしれないですけど……わたし、本は紙の方が好きなんですよね」
ユイは恥ずかしそうに言った。
「紙の本なら、文藝部の部室にもあるよ。ユイの趣味に合うかどうかは知らないけど」
「本当ですか?」
トワが提案すると、ユイは明るい表情になって彼の手を取った。
「では、さっそく明日文藝部へ案内してください」
輝くような彼女の万面の笑顔を前に、トワはユイの要求を断ることはできなかった。
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