黄金色の転校生 3
「珍しいな、おまえが遅刻ギリギリなんて」
教室へ入ると、トワの前の席に座るカオルが早速声をかけてきた。
「二度寝したからね」トワは席に座り、事実を返す。
「二度寝って……漫画かよ」
社会インプラントを使う者にとって、二度寝はフィクションのような概念だ。人々は社会インプラントによって生活を管理されている以上、二度寝をするようなサイクルを引き起こすことはない。ナノマシンによって、強制的に起床させられてしまう。
「たまにはね。社会に抗ってみたいとも思うさ」
トワは自分でも正直、何を言っているのか分かっていなかった。
「どういう意味だよ、それ」と、カオルが返す。「二度寝が社会に抗うことになるのか?」
「じゃぁ、逆に聞くが、カオルはこの世界が現実だと思うのか?」
トワの問いにカオルは首を傾げた。
「現実じゃなかったらなんだっていうんだよ」
まぁ、そういう反応をするよな、普通。と、トワは彼の返事を軽く流す。
「仮に、だ。向こう5年間の記憶を持って、今この刻にいるとすると、カオルならどうする?」
「は?」と、カオルが聞き返した。「状況が掴めないのだが」
トワは肩を落とし説明を加える。「昨日までの自分は大学生だったのに、今朝目を覚ましたら高校生になっていた。として、カオルはまず何をする?」
カオルは首を傾げて、「詳しく説明されてもよく分からないな」と言った。「その状況って、そもそも向こう5年間の記憶がないと何がしたいのかも分からないわけだし」
確かにな。と、トワは思った。
「じゃぁさ、今から5年前に戻るとしたら?」
「何にもしないだろうよ」カオルが即答した。「そもそも小学生か、中学入ったばかりだぜ? 出来ることの方が限られるだろうよ。今でさえ、子供だっていうのに」
「そういうもんなのかな」トワが言うと、カオルは首を振った。
「大学生から高校生ってんなら、また別の問題だろうよ」
「というと?」
「俺が高校生だからかもしれないが、少なくとも大学生っていうと大人だぜ? 人によっては自立して生計を立てることだって出来るだろうよ。そうすると、少しは現実とか、社会とか、そう言うのが見えてくるんじゃないかな?」カオルは続けた。「過去に戻って何かしたいなんて、そんな大層なこと、そんくらいにならなきゃ何も分からないさ」
その刻、始業の鐘が鳴った。鳴り止むと共に教室が静まり返った。それに呼応するように、担任の先生が入ってきた。
「今日も全員居るなぁ」
担任は点呼をとることもなく出欠管理を終わらせた。実際、点呼を取らずとも教室に居るかどうかは社会インプラントの情報を読み取れば分かる。
「今日は転校生を紹介する」
担任がそう言うと、扉を開けてひとりの少女が入ってきた。
長い髪を揺らし、ゆっくりと教室へ入ってきた少女。背丈は平均並みで、今にも壊れてしまいそうな程華奢な体格。彼女はトワを見ると、少し驚いたような表情を浮かべた。
おそらく、トワも同じ表情をしてだろう。
同い年,とは聞いていたが、まさかクラスまで一緒になるとは。
「——ユイ,と言います。これからよろしくお願いします」
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