黄金色の転校生 1

 脳内にアラームの音が鳴り響いた。体内を巡るナノマシンが活性し、トワは目を覚ました。

 トワが首を傾げた。この時間に起動するアラームを設定した覚えはない。しかし、視界の端に表示された時刻をみると、確かに高校時代に目を覚ましていた時間に等しい。

 トワは大きな欠伸をした。昨日まではゆっくりと眠っていた時間だ。もうひと眠りしようと、トワは布団を被った。


——本当にこの時代に戻ってきたのかな……


 ナノマシンが活性化しているので、実際に眠ることはない。休眠状態にしても良いが、それでは盛大に学校に遅刻してしまいそうだ。


——夢、にしてはかなり繊細なモノを見ていたような気がする……


 トワは昨夜見ていた夢を思い出した。あれは確か大学2年の秋学期が始まろうとする頃だったろうか。トワとスミレは,学期は始まる2週間程前は決まって、本屋へと赴いて数時間紙書籍を眺めた後、近くの喫茶店でお茶をするのが定石となっていた。

 実際に紙書籍を買えば割引が付いたのもある。


——あちらを夢だと言うのは、無理があるよなぁ


 スミレの容姿も仕草も、彼女の香りも、トワの記憶に鮮明に覚えている。現実に会ったことのない人を夢に、それも実際にあったことがあるかのように思い出すことは出来るのだろうか。

 それも、トワの創り上げた架空の人物であるという可能性は否定できない。

 そういえば……と、トワは思い出す。

 スミレは『電霊』と言っていた。それは今の時代の話題ではないらしい。実際、インプラント学習の製品が発売されたのは、今年度末という。

 しばらく、この話題をアヤに振ることはできない。

 しかし、スミレの言っていた電霊という現象を利用すれば、昨日の話で出ていた現実を全て機械に委ねるということも不可能ではない。

 ならば、トワは電霊なのだろうか?

 いずれにせよ。その問いは、彼自身に答えられるものではないだろう。

 その刻、軽快な電子音が脳内に響いた。メッセージの受信を告げるその音を聞き、トワは意識をはっきりと起こした。ナノマシンを駆使し、メッセージ画面を表示させる。

メッセージの送り主は妹のサクラからであった。

『まだ寝ているの?』

 彼女の部屋は隣だ。部屋へやってくることもなく、メッセージで起床を確認するあたり、この時代の仕草に染まっている。

『起きているよ』と、トワは素早くメッセージを送る。

 サクラからの返信も早かった。『さっさと朝御飯食べなさいよ。あと、お母さんが学校行くとき、ごみ袋捨てておいて、だってさ』

『それならサクラが出せば良いだろう?』トワが返信すると、サクラが返してきた。『残念、寝坊助な兄さんと違って、私はもうバスなので』

 トワは溜め息を吐いて、『わかったよ』とメッセージを返す。

 気が付けば、30分程意識を飛ばしていたらしい。流石に、とトワは思い、身体を起こした。忘れないようにゴミ捨てをリマインダーに登録して、身支度を始めた。

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