第9話


玄関にはアキの靴が並んでいた。


(ああ、今は会いたくない)


「おかえり~」

と母の声がした。


リビングに行くと、アキが座ってた。

ご飯を食べている。私の兄の隣に座って。

「アズ、おかえり」

「あ、ただいま」


アキは私を上から下まで見た。


「デート?」

口にから揚げを入れたまま聞いてきた。

「まあ、うん」

「いいじゃん、ワンピース」


いつもは褒めないくせに、、、。


「アズ、ご飯あるわよ、座って」

「うん」


アキの前に座り、ご飯を食べる。

アキがちらちらとこっちを見てくる。

私はその視線を無視してテレビを見てた。


「てか、なんでアキがいるの?」

「スーパーの帰りに会ったからよ」

「そうそう、たまたま会ったら、ご飯食べてけって」

「アキのお母さん今出張中だもんね」

「うん」

「食べたら2階行くでしょ?お友達が来るから」

「え?今から?」

「そうよ、家に呼んだの」

「あ~わかった」


ご飯を食べた。

アキと洗い物をする。

昔からそうだった。

アキがうちでご飯を食べた後は2人で皿洗いをする。

前は楽しかったのに、今日はなんか楽しくない。


洗い終わって2階にいく。

アキも私の部屋についてきた。


「帰んないの?」

「うん、帰んない」

「なんで?」

「なんとなく」

「なんでよぉ」

「帰ってほしいの?」


ここで私は帰ってほしいとは言えなかった。

私が逆の時もあったから。



部屋のドアを閉めると、アキがキスしてきた。


「もうっ!」


アキを突き飛ばした。


「ごめん」


アキが小さく謝った。

私はなんだか泣きそうになる。


タクミ君の顔が浮かんだ。



アキが私の前にもう一度立ち、こっちを見る。

そして唇を指で拭いた。


「今したのは取り消す。ごめんアズ」

「・・・・・・・。」

「ごめんって」

「うん」

「許す?」

「うん」

「怒ってんじゃん」

「怒ってないよ」

「アズ」

「ん?」

「今日、デートしたの?」

「うん」

「こないだの駅にいた人?」

「うん」

「付き合ってんの?」

「うん」

「そっか」

「うん」


「うん ばっか言うなよw」

「うん」


アキは優しく笑って言った。

「もう、会えないね」


アキは私の頭をそっと撫でて部屋を出て行った。



ちょうどタクミ君からLINEがきた。


「なにしてる?」


私は少しだけ、ほんの少しだけ文字を打つ指が震えてた。


「夜ご飯食べたよ~」


と。



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