第17話アメリカンスピリッツ・現代日本
ひええ、えらいことになったなあ。まさかマスクや消毒用アルコールに続いてドライイーストまで買い占められるだなんて。報道やネットでは『自宅でパン作りをする人がいるから』なんて言われているけれど、絶対にアルコール発酵を転売屋さんは意識しているわね。
現にあたしが高濃度エタノールを精製して近所に配ってるんだから。まあ、あたしはこんなバンデミック騒ぎが起こる前からドライイーストは買い込んであるからね。密造酒づくりはとどこおりなしっと。
炭酸飲料用の1.5リットル用ペットボトルを数本ずつ用意しまして……それぞれに100パーセントの濃縮還元のオレンジジュースやグレープフルーツジュースを1リットル注ぎます。紙パックで1リットルサイズが売られているから便利よね。
そこに1キロの白砂糖を3分の1にしていれていく。これで1.5リットルよりちょっと少ないくらいになるのよね。そこにドライイーストをパラパラ。そして、ここでこっそり2日前に同じことをした1.5リットル用ペットボトルと入れ替えて……
これを2,3日今の季節の常温で放置して置いたらアルコール発酵が進んで酒税法違反になっちゃうからドライイーストをパラパラしたらすぐにキャップを占めるんだよ。2,3日放置しちゃダメなんだよ。あ、でもその場合はすぐに飲まないとアルコール発酵で生じた二酸化炭素で内圧が高まってペットボトルがドッカンしちゃうから気を付けないとね……なんて言い訳をしたうえで。
キャップを占めてさらに1日放置。こうすれば、アルコール発酵の二酸化炭素がいい感じに炭酸でスパークリングにしてくれるのよね。ジュースにドライイーストをパラパラするだけじゃあ、いまひとつアルコール度数が物足りないのよね。そこに白砂糖を加えることで、アルコールがガツンと強くなるんだから。
これを飲んだらもうストロングなんてケミカルくさいものは飲めないわ。あたしがやってることは酵母菌のアルコール発酵だからケミカルって言うよりバイオロジーよね。ううん、フレッシュ!
ひょっとしたら、そのうち白砂糖も転売屋さんに買い占められちゃったりして。うふふ、確かソ連が崩壊したときもそんなことをロシア人がしてたのよね。まったく世も末だわ。そうなったら、あたしが買い込んであるたくさんの白砂糖の転売で一財産築けちゃったり……
バンデミック騒ぎの中、一人の闇商人が暴利をむさぼるのであった。その姿はまさに現代のアル・カポネ……なんちゃって。アル・カポネ……誰だっけ? 禁酒法時代に密造酒で大儲けしたマフィア……禁酒法時代の有名どころはルーシーじゃなかったっけ?
「Oh! What's this? Not wine! But delicious!」
きゃ、ごめんなさい。うそです、あたしはそんな大悪人じゃありません。ただ少しばかり酒税をちょろまかしている小悪人でございます。ほんの出来心だったんです。なにとぞ寛大なご処置を……あ、ルーシーさんだ。また来たのか。
あたし特製のオレンジとグレープフルーツジュースからのスパークリングワインをおいしそうに飲んでる。ふふふ。それもそうよね。ブドウジュースやリンゴジュースから作ったスパークリングワインは大手の酒造メーカーも作ってるけど、オレンジジュースやグレープフルーツジュースからのスパークリングワインはメジャーじゃないからね。
おかげでお得意さんにも大好評なんだから。とくにスクリュードライバーやソルティードッグなんて甘いカクテルが好きな女の子にバカ売れで……
「ディスイズオレンジアンドグレープフルーツ!」
「Wow! I have never drunk cocktail like this!」
今カクテルって言った? カクテルって言いましたか、ルーシーさん。違うんです。これはカクテルじゃないんです。あたしが100パーセントのオレンジジュースやグレープフルーツジュースに砂糖を加えてアルコール発酵させた醸造酒なんです!
「ノー。ディスイズノットカクテル。ディスイズブリュード。アイアドシュガートゥーオレンジアンドグレープフルーツジュース。アンドドライイーストアドアリトル」
「Amazing! You added sugar! Orange juice and Grapefruit juice are brewed! It's unbelievable!」
わ。ルーシーさんにあたしのスパークリングワインの作り方が伝わった。ルーシーさんとお話ししたくて英語を勉強した甲斐があった。特にお酒方面を重点的に勉強したんだから。
「What's this bottle?]
きゃ。ルーシーさんがペットボトルを不思議そうに見てる。ルーシーさんが禁酒法時代の人だとしたらペットボトルなんて知るわけないよね。下手したら缶ビールだってなかったかも……あ、ルーシーさんがペットボトル抱えて出ていっちゃった。またいなくなっちゃうんだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます