相楽高校女子ボクシング部 ~最強ボクサーだった俺が"特殊性癖持ち"女子限定のスポ根ラブコメハーレム物語を始めるようです~
第24話 ~予選編③ 童貞好きのハードパンチャーは、ナニかを持っているかもしれない~
第24話 ~予選編③ 童貞好きのハードパンチャーは、ナニかを持っているかもしれない~
「なっ……!?」
準決勝、第2ラウンド。
相手選手が明らかに狼狽した。
目が見開き、一瞬動きが止まる。
「輪島さん!いけ!」
「――ッ!」
素早く前進する輪島さん。
ガードをせず、だらりと下げた長い左腕から鞭のようにしなるジャブを繰り出した。
通常のガードポジションから伸びるジャブと違い、斜め下から不規則に直撃する左ジャブ。
2発、3発と鞭で叩かれるようにジャブが顔面に命中する。
――"フリッカージャブ"。
これが、輪島さんが合宿で柴田さんから教わった新技術である。
階級にしては身長が高く、長い手足を持つ輪島さんにとって、これは超有効な戦い方。
距離を取りつつ、フリッカージャブで相手を翻弄する。
「いいぞ!教えた通りだ!」
セコンドに付く俺の隣で、相変わらず角刈りで色黒な柴田さんが叫んだ。
そう。
今日からは柴田さんが応援に駆けつけてくれたのだ。
もう1人のセコンドとして、リングには入れないが俺と共に指示やサポートをしてくれている。
右手は顎の横。
左手は近距離戦以外は基本だらりと下げ、自由に動かしている。
ボクシングを初めて1年の人間に変則スタイルを習得させるのは少し気が引けたが、柴田さんの強烈な希望により習得することになった。
「輪島、リラックス! 肩の力抜いけてよー! リズム大事だからなッ!」
正直、俺よりも声を出している。
しかしながら、これまでの俺とは異なる視点での指示を出してくれていた。
「そうそうそう! それだ!」
柴田さんの指示の通りに、輪島さんが手早くジャブ、ジャブ、右フックと連打していく。
1ラウンド目は押していた相手も、次第に手数が減っていく。
相手が近づいてきたら"自分は届くが相手は届かない距離"のフリッカージャブで足を止める。
足が止まったら接近し、右を力強く当てていく。そして足を動かして回り込みもう1発。
彼女のスタイルが確立されていた。
準決勝2ラウンド目にして、このスタイルを解禁したことは大きい。
本来格上の相手が明らかに焦りを見せていた。
「シッ、シッ……!」
2ラウンド目残り30秒。
お互い肩で息をし始める。
相手の力強いパンチに、時折アゴが上がってしまうものの、現状手数や立ち回りでは逆転したはずだ。
ここでゴング。
次は最終ラウンド。
俺が急いで置いたパイプイスに輪島さんが腰を掛ける。
大粒の雫をリングに垂らしながら、顔に張り付いた髪と汗を拭った。
「輪島さん、ポイントは逆転したと思います。最後の力を振り絞って、また動き回りながら手数を増やしていきましょう」
「ハァッ、ハァッ……うん、了解だよ」
「よし、最後頑張ってください」
「勝ったら決勝だね」
「ですね……まずはここを乗り切りましょう」
ここでインターバル終了。
立ち上がり、ニュートラルコーナーでファイティングポーズを取る。
ゴングが鳴り、両者がぐっと近づく。
リングサイドに降りた俺の肩を、柴田さんが大きな手で掴んだ。
「拳弥……お前、まだ甘いな」
「え……?」
「まあ、今言うことじゃねぇが」
「な、なんですか……?」
振り向くと、柴田さんは険しい表情を浮かべていた。
意味が分からなかった。
この言葉に意味と、険しい表情を浮かべる意味が、まったく理解できない。
心の奥底で沸々とイラ立ちが芽生えるが、気にせずリングに目を向ける。
「輪島さん! 少し距離が近いです!」
「……ッ!」
3ラウンド目は相手も徐々に目が慣れたのか、ほぼ互角の打ち合いを繰り広げ始める。
この時、俺は柴田さんの言葉の意味を痛感することになるとは思っていなかった――。
「判定の結果をお知らせします……10対9、青コーナー、相楽高校……輪島選手」
「よっしゃ!」
「よくやったな輪島!」
ギリギリの判定勝利。
輪島さんはなんと決勝まで駒を進めた。
とんだ大番狂わせだ。
輪島さんも信じられないといったように目を見開いてキョロキョロと辺りを見回す。
肩を落とし、うなだれる相手選手。
グローブを合わせ、トボトボと降りる相手とは対照的にルンルンな輪島さんが帰ってくる。
「ナイスです、輪島さん」
「危なかったよ~、新しい技があってよかった……」
「そうですね、もしこれがなかったら――」
「輪島! 新しい技を早速応用できたお前の努力とセンスだ! 今の輪島は強い、おめでとう!」
「柴田さん……へへへ、 ありがとうございますっ」
「…………」
俺の言葉を遮って、柴田さんが輪島さんの肩を力強く叩いた。
初めて褒められた子供のように、顔を赤くして輪島さんは照れ笑いをしていた。
ヘッドギアを取り、グローブを外して控室へと3人で移動する。
さて、輪島さんの決勝進出が確定した。
次は……あの人の"決勝戦"か。
「それでは、ライトウェルター級決勝戦を行います。赤コーナー、相楽高校……長谷川選手」
アナウンスと共に、赤いグローブを付けた長谷川さんがローブを潜る。
それに続いて、俺も水とマウスピースを持ってローブを潜った。
「青コーナー、相模原学園高校……中島選手」
同じ体格くらいの、男子のようなキリッとした顔つきが特徴的な相手選手がローブを潜る。
腕や肩の筋肉が発達しており、落ち着いた様子だ。
「んっ……」
口を大きく開けた長谷川さんの歯にマウスピースを突っ込み、背中をポンと叩く。
「相手は今までよりもパワーもテクニックもあります。こちらもバリエーションを増やしていかないと、きっと翻弄されます……ファイトです!」
「ふふ……まさかここまで来るとは思ってませんでしたわ」
「せっかくですから、出せるもの全部出し切りますわね」
「そうですね、すべてをぶつけて、気持ちを強く持っていきましょう」
「承知ですわ。勝ったら童貞のお友達をご紹介してくださいね。あと騎乗位の練習も」
「はいはい……」
3回ほどジャンプをし、爆乳を大いに揺らしたあと、苦笑いを浮かべる。
しかし、相手と目が合うと互いに険しい顔つきへと変わった。
グローブを合わせ、構える。
レフェリーの声と共にゴングが鳴り響いた――。
2ラウンド目。
ここまですべてKO勝利という大波乱を生んでいる長谷川さんのパンチは、たしかに当たっていた。
「はっ、はぁっ……ふっ……!」
何度か力強い――本来なら倒れるくらいのパンチが突き抜けたはずだが、相手はまだ倒れていない。
それどころか、相手も同じパワーを以て応戦してくる。
明らかにダメージを負っておりスタミナが削られているのは長谷川さんだった。
「ぐっ!?」
大きな体格にして素早い相手のボディブローが強く突き刺さる。
長谷川さんの口が大きく開き、唾液が飛沫する。
「気持ちだよ! 長谷川さん!」
脳が揺れて体が言うことを聞かなくなる頭への攻撃と異なり、ボディブローは気持ちで耐えるしかない。
きっと今呼吸が苦しいはずだ。耐えろ、長谷川さん。
長谷川さんの顔が歪む。
しかし、嫌がる彼女にお構いなくボディブローが右、左、と連続で撃ち込まれる。
「はーっ、ひゅうっ、はぁっ、はーっ……!」
2ラウンド目にして体力はもう残っていない。
1ラウンド目と変わらないフットワークの相手と対照的に、悶絶の表情。
ダメかもしれない。
だが、このために用意したんだろうが。
「長谷川さん! 使いましょう!」
「…………ッ!?」
俺の声に、彼女の頭がピクッと動いた。
しかし、ここでゴング。
相手は長谷川さんをキッと睨みつけ、コーナーへ踵を返した。
パイプイスにぐったりと座り込む長谷川さん。
水を口に注入し、彼女の頭に手を置く。
「長谷川さん、視界は大丈夫ですか」
「少し……ふらふらしますわ……」
「……3ラウンド目、怖いかもしれませんがもう使いましょう」
「…………承知ですわ」
顔をグッと近づける。
顔を紅潮させ荒く息を吐きだす彼女の目を見つめた。
「それでダメなら……もう無理ですわ」
「長谷川!お前のあのパンチはプロもぶっ倒れる! 自信持っていけ!」
「あと長谷川! ウチの部員の童貞50人紹介してやるぞ!」
「……ッ!」
後ろから柴田さんの太い声が響いた。
長谷川さんがハッと我に返り、汗を拭って立ち上がる。
「ミスター拳弥……わたくし」
「今日は脇役じゃないかもしれません」
目には光が戻っていた――。
俺には、その瞬間がスローモーションに見えた。
3ラウンド目序盤。
ゴングが鳴ってすぐのことだった。
余裕の表情で、相手が少しオーバーハンド気味の右ストレートを振りかぶった。
長谷川さんの顔面へ、その拳が弧を描いて突き進んでいく。
――はずだった。
その拳の先に、彼女の顔はなかった。
「…………ッ!?」
相手の目が見開く。
空を切る右腕。そして、振り切った右肩の下に長谷川さんの頭があった。
拳が振りぬかれるより先に、彼女の頭は拳とすれ違い、相手の脇下まで移動していた。
「うぐっ……!?」
そして。
長谷川さんの左の拳は、大きく回転して相手の顎を捉えていた。
相手の腕が伸び切ると同時に、ドリルのように鋭く回転した"左"が顎を突き刺していく。
衝撃で、大きく上がる顎。
そして、反り返った頭はそのままリングへと沈んでいった。
――クロスカウンター、そしてコークスクリュー・ブロー。
「長谷川ァ! この野郎やってくれんじゃねぇかッ!!」
「長谷川さん……やりやがった……」
リングが鈍い音を上げ、遅れてゴングが鳴り響く。
「びっくりですよ! 長谷川さん!!」
――インハイ出場。
誰よりも一足先に、その切符を掴んだのは意外にも彼女だった。
思わず、リングに駆け上がり長谷川さんを強く抱きしめる。
「長谷川さん、あなたは間違いなく主役です」
「ミスター拳弥! ミスター拳弥! わたくし、やりましたっ!」
ところどころ赤く腫れた、無邪気な笑顔で俺に勢いよく抱き着き返す。
柔らかいボリューム感のある感触が体を支配する。
あ、フローラ――汗くさ。
無名選手の優勝に、会場が明らかにどよめいている。
リングサイドに降りると、柴田さんが大きな手で長谷川さんの頭をわしゃわしゃと撫でる。
子供のように喜ぶ長谷川さん。
「長谷川ァ、お前しっかりクロスカウンター合わせられたじゃねぇか!」
「はい……!」
そう。
彼女は、この試合までに2つの新技を練習していた。
クロスカウンター。
相手のパンチと同時にカウンターを返す。
普通は、相手のパンチを避けて即座にパンチを返す。
しかし、相手の腕が出ると同時に顔を相手の懐付近に潜り込ませ、相手がパンチを繰り出した時にはもうこちらのカウンターも相打ちで当たっているという状態だ。
このカウンターには、何より勇気が必要である。
下手すりゃ、自分から拳に顔を当てに行くことになる。
反面、勢いを付けてカウンターができるため威力は通常よりも高くなる。
そして、コークスクリュー・ブロー。
通常より、腕を回転させてドリルのように抉るストレート。
空手の正拳突きと同じ原理で、内側に腕を捻りこむ。
それによって、相手により多くのダメージを与える。
この2つを同時に組み合わせて1発で沈める。
超ハードパンチャーの彼女をさらに覚醒させる新技である。
「いくらでも童貞紹介しますよ!」
「やったぁー! 期待しておりますわよ!」
「いやぁ……まさか優勝するとは……」
自分が輝くべきじゃない。
そうやって自分を卑下していた彼女はもういない。
この童貞好きはナニかを、持っているかもしれない。
今日のあんたは絶対的主役だ――。
「五十嵐!ラッシュかけろ!」
コーナーに追い詰めた相手を、フックとストレートの連打で更に追い詰めていく。
準決勝3ラウンド目、ここまで互角だったものの、スタミナの切れた相手を一気に追い上げていた。
連打と共に散っていく汗しぶき。
五十嵐は全般的にどの局面でも上手いボクシングをするが、インファイトが最も強い。
その防御技術とスピード。
接近戦では相手が翻弄されることが今大会は多かった。
高回転の連打。連打に次ぐ連打で追い込みをかけ、さらに1発。
ガードの下がった相手に最後の右フックが刺さったところで、間にレフェリーが入った。
この試合の五十嵐は気迫が籠っていた。
ここまですべて判定勝利だった彼女が、初めてTKO勝利を挙げた。
「ナイスだ五十――」
「部長!!」
俺がリングに上がろうとした瞬間、五十嵐は奥にいる輪島さんにグローブを向けた。
「え……風音ちゃん……?」
キョトンとする輪島さん。
勝ったというのに険しい表情で、リングの中央から五十嵐は叫んだ。
「ウチ、あんたに負けないっすよ」
「――ッ!」
大番狂わせと言っていいほどの奇跡的な決勝進出。
「五十嵐……?」
その先には、輪島さんVS五十嵐の"潰し合い"が待っていた――。
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