25. 

 気が付けばもう雪が降る頃で、肌寒い季節が訪れていた。

制服の上にコートを着ている生徒がちらほら見える。格好をつけて上着を着ない生徒は今年もマフラーだけ巻いて登校してくるのだろう。


 最近は加藤さんと一緒に毎日登校している。あの日、彼女の胸中の告白を聞いて、僕は少し動揺した。しかし考えてみると確かに彼女がそのような”倒錯”を抱えている素振りはあったのだ。僕は納得して彼女と関わることとした。それに彼女は僕が描く絵画の人物が好きでいるようなので、近頃は専ら彼女のためにだけ絵を描くようにしている。



 ところで秋ごろの文化祭の結果は、とても好評だった。僕が描いた作品は果たして佐藤部長が作品展にねじ込んで展示してくれていた。僕は加藤さんの肖像画を描いた。正直なところ、人物画は苦手なのだが、彼女が自分を”好き”になれるように描いたつもりだ。その画は僕の思った以上に人の目に触れた。当然、僕は正規の部員ではないが、学校外の人間は気付かない。さらには学校内の人間でも僕が部外に人間であることは気付かず、むしろ部内の人間であると思われていた。

 画は青を基調とした背景で、人物はカサブランカを携えているといった様子だ。

自分でも満足のいく出来だったと思う。学祭中に何人かには「お前、絵が上手かったんだな。」と言われることもあった。「大したもんだなあ。」と学祭に来た誰かの親が声を漏らしていたこともあった。久しぶりに描いた画だったのでどんな評価が下されるのか不安であったが、存外悪くない評価で僕は安心した。この画が酷評されるのは構わないが、それが彼女へ飛び火をすることだけは避けたかった。


 学祭中は手持無沙汰で、特にやることもなかったのでとりあえず学校中を一人で回っていた。少し褒められて上機嫌になった僕はクラス中の出し物に参加していた。一人でクラスに来る僕はかなり奇異の目で見られたが、そんなのは気にならないほど久しぶりの良い気持ちであった。

 昼に出店で適当なものを買い、テーブル付きの椅子に座って喧騒を眺めていると、やがて加藤さんがやって来た。そこからは一緒に行動をした。その時は確かに楽しかったはずだった。

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