18. 

 夏休みが明けた。去年よりは充実した休暇だったなと思う。ただ家でだらだらするか、写真を撮りに出かけるかを選び続ける毎日よりはとても学生らしい生活を送ることができた気がする。


 僕はいつも通り誰よりも早く登校し、座席に着く。そして授業が始まるまではいつも小説を読んでいる。その小説については特にこだわりもなく、ただ毎日足繫く通っている書店の店頭に売られてる物のうち、気になるものを買っている。

 遅刻手前の8時10分を過ぎた頃、席を立ち窓の外を見ていると加藤さんと竹下が並んで登校しているのが見えた。学校に家が近い加藤さんと一緒に登校しているということは竹下もこの辺りに住んでいるのだろう。



 しばらくすると、彼らは教室に入ってきて、


 「おはよう、加藤さん。竹下。」


 「おはよう、檜ヶ谷。」


と挨拶を交わす。


 最近、構築されたいつも通りの日常が始まる。ただひとつの違和感だけを残して。


 放課後、部活動が始まる。いつもであったら写真部の部室へ行き、活動もとい暇潰しをするのだが、なぜか佐藤部長に油絵制作のアシスタントを頼まれたので 、特に写真部としての活動に力を入れている訳でもないし、断りづらいので引き受けてしまった。なので、


「加藤さん。僕、今日美術部に呼ばれちゃったからさ、一緒に行かない?」


彼女は頷く。そのまま僕と彼女は美術室に向かう。くだらないことを話しながら、美術室に着いて、引き戸を開けると竹下がいた。


「どうした?転部でもしたのか?」と僕が問うと、


「いや、ただの暇潰し。」と返した。


 僕は佐藤部長の制作を終始手伝っていたが、結局竹下は美術部に転部しようとしている様子はなく、ひたすらに加藤さんと喋っていた。そのなかで、たまに僕へ話を振られることもあったが、僕は曖昧な返事だけを返した。そして、部活動が終わると竹下と加藤さんは登校と同じく一緒に帰るようになっていた。


 次の日も、その次の日も同じく。そんな毎日が続いた。


 翌月、加藤さんが通院のため休んだ日、僕は竹下に加藤さんとのことを聞いてみた。


「付き合っているよ。」


と結果だけを伝えられた。僕はそうだろうなと思った。キャンプでの彼の発言に加え、思春期の男女に特徴的な距離感を間近で見たのだ。ある程度、察しは付いていた。


 9月も中旬に差し掛かった。まだ、夏が未練がましく存在を主張していた。時間をかけてほんの少しずつ乾いていく佐藤部長の絵を見ながら、僕はサイダーを飲んだ。








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