17. 

”絵画のなかの人物を好きになったことはある?”と檜ヶ谷君に聞いてみた。


「それは絵として描かれた対象の人物ということかい?」


”うん”


「あるかもしれない。そもそも僕は素敵だと思ったもの以外は描かないんだ。」


 私と同じだ、と思った。私も自分が素敵だと思ったものだけを描いている。ただ描きたいと思ったから描いている。初めて見た海は、潮騒は果たして、私の想像通り素敵なものとして目に映った。だから描いている。同時に檜ヶ谷君と竹下君も素敵なものとして私は思ってしまった。最初、私は海だけを描くつもりだったけど、途中から密かに檜ヶ谷君と竹下君のことも描くようになってしまっていた。


 キャンプ3日目の夜。


 その日の夜は三人とも、遅くまで起きていた。コンロの火を囲んで暖をとりながら、過ぎる時間を惜しむように会話をしていた。くだらない学校生活の話題に始まり、将来の夢から進路など色々なことを話していた。しかし恋愛についてを話題にしなかったのは後のことに関係したのだろう。


「加藤さん。絵は描けた?」


加藤さんは頷く。


「なら良かった。」


「あとは色を入れていくだけか、大変だな。絵を描くのは。」


「そうかもしれない。でもありきたりな言い方だけど、出来上がった時の満足感に勝るものはないんだ。」


加藤さんは僕を見た。同意してくれたのだろう。


「そんなもんなのか。」


「そうだよ。」


束の間、静寂が流れる。僕はクーラーボックスの中身がほぼ無くなっていることに気が付いた。


「何かジュースでも買ってくるけど、リクエストはある?」


「俺はコーラで。」


加藤さんは周りをきょろきょろした後、手持ちのサイダーに気付き、それを僕に見せてきた。”これをもう一つ”という意味なのだろう。


「分かった。じゃあ行ってくる。」そう言って僕は近くのコンビニまで行くことにした。


これは後になって思うことなのだが、一人で行かなければよかったのかもしれない。



 この時、竹下は加藤さんに告白していた。そしてそれは成功していた。

これは後日、彼から聞いたことだ。

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