14.
懐かしいなと思う。昔、僕はこのようにテントを立てて何日も滞在した。そして気が済むまで景色を目の奥に焼き付け、絵を描いていたのだった。それをやめたのは最近であるが、遠い過去のように感じる。
テントを立てるための準備を終え、僕は彼らを待った。潮風を浴び、手持ち無沙汰に砂を掻きまわした。目の前では僕たちと同じく海水浴に来た人たちが海を泳いでいた。楽しげな黄色い声が耳によく付いた。
ふと思う。僕も目の前の人たちと同じように楽しみたいのだろうか?
もちろん楽しむことができたのならそれが一番なのだろうが、自分が楽しむための行為というものに僕はとんと疎かった。
やがて荷物を抱えた彼らがやって来る。僕はその姿を認めると、
「こっちだよ!」と久しぶりに出す大きな声で彼らに伝える。
「お待たせ。」と彼らはやって来た。
「よし、檜ヶ谷。テントを立てるか。加藤さんはコンロとかの準備をお願い。」
「分かった。じゃあテントにポールを通していくか。」
僕と竹下はテントを建てていく。加藤さんはその横でコンロを組み立てていく。
準備が終わった頃、すっかり僕らはお腹を空かせていた。
コンロに炭を並べ、火を点けていく。充分な火力となったところで焼き網を置く。クーラーボックスから食材を取り出し、網の上で焼いていく。
僕らは椅子に座り、食材が焼きあがるまで待ちながら海を眺めていた。
「どう?絵、描けそう?」
彼女は頷く。
「ならよかった。」
「肉焼けたぞ。」竹下が会話に挟まる。
僕たちは遅い昼食をとった。昼間のことを忘れるように、各々、海を泳ぎ、絵を描き、2人を眺めた。
加藤さんは鮮やかな手つきで下書きを書いていた。後ろから眺めていると、彼女は終始、たまに吹く風が運ぶ砂に苦戦していた。竹下は、僕らのことを気にかけつつも海水浴を楽しんでいた。途中で、中学生の時の同級生に出会ったらしくそこからは彼らと楽しんでいた。
僕はというと、何もせず椅子にもたれながらただ海を眺めていた。潮騒に耳を濡らして、寄せては返す波に思考を流していた。日が落ちるまでずっとそうしていた。
夜になり、僕らは着替えてテントに入る。不思議と嫌ではない窮屈を感じながらすっかり疲れた僕らは泥のように眠った。
僕らの1日目のキャンプが終わった。
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