12.
彼女がくれたノートをぱらぱらとめくって読んでいた。
”この学校に来て初めてテストを受けたんだけど、なかなか難しいね。でも数学は自信あるよ。”
”今日は生物だったね…、やっぱり難しかったよ。今度檜ヶ谷くん教えてね。
あと今日はテスト終わったあと、同じ美術部の加奈ちゃんと明日の英語の勉強して
たんだ!だから明日どれくらい解けるか楽しみ。 ”
”海に行く件、驚きました…! でも、嬉しいな。今まで海がないところに住んでいて行ったことなかったから、一度行ってみたかったんだ。あとはお母さんの反応待ちです!
あとやっぱり檜ヶ谷くんは竹下くんと私に何か奢ることね!”
”外泊の許可がでました!初めての一人のお泊り。楽しみ!今までお母さんもお父さんも忙しくて旅行なんてしなかったからわくわくします。
そして明日檜ヶ谷くんと竹下くんが家に来る!早くいい返事を伝えられたらいいな。”
”明日はとうとう海に行く日!着替えと好きな画集と必要最低限の画材とか画用紙とか色々入れて準備終了!あとこのノートも明日檜ヶ谷くんに渡そうと思う。私が話せない分、彼にはこれが必要だろうから。夜遅くなっちゃった、寝よう。”
「加藤さん、ありがとう。海、初めてだったんだね。連れてきてあげられて本当によかった。」
彼女は頷いた後、風に髪を任せて目を細め幸せそうに景色を眺めた。
「連れてきてやったのは俺だけどな。檜ヶ谷、それ何?」
「秘密だ。」
「ケチ。」
「ケチのままでいいって君が言ったろ?」
「また揚げ足取りやがって!いいけどさ。それじゃあそろそろ行こうか、加藤さん。」
僕らはまた歩き出す。登る時よりも足を滑らせないように注意の声をかけながら歩いていく。率先して声をかけているのは竹下だ。このような状況の時、いつも彼は周りの様子に気が付く人間だった。
潮の香りが近付いて来るのを感じる。”もう少しで着くな”と彼が言う。
最初に違和感があった。でも僕らの他にもここを歩いている人がいるんだなと思った。少し背の高い人が立ち止まっているだけなんだなと思った。山中だから変わった匂いのようなものが少しするのも普通なのかもしれないと思った。
首吊り死体があった。腐敗しているように見えた。その死体の四肢と腹中は、恐らく虫などにその肉を削がれたのかとても薄かった。その下を見ると、穿いていたであろうスラックスがその身に耐えられず落ちていた。臍から生殖器にかけて上半身と下半身の継ぎ目は無残になっていて、少し内臓も見えていたかのように思う。大人の死体であろうそれはなぜか少年のそれのようにも見えた。
人の死体というものを僕は初めて見た。小学生の頃、体育館の端でドッジボールをしている人たちを眺めていたら急にボールを頭に投げつけられた時のような衝撃を受けた。
「竹下。」と僕は小さく声をかけた。
「行こう。」とだけ彼は言った。
加藤さんがそれに気が付いているのか、それとも気が付いていなかったのか、僕と竹下はその時確認する余裕がなかった。
僕らは歩いていく。視界が開けていく。海に着いた。
「やっと着いたな、海!それじゃあ俺はまず親戚の家に行って荷物を取って来るから、先に遊んでこいよ。ん?」
気が付いたら僕ら3人とも手を繋いでいた。竹下はそこで加藤さんの手を引っ張っていることに気付き声を出して笑った。そんな竹下を見て僕も彼女の手を握っているこに気付き笑った。彼女も笑っているように見えた。多分、結構な時間そうしていたと思う。
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