10.
今学期の終業式を終え、僕らは夏休みに入った。僕と竹下は加藤さんの家に向かった。加藤さんの家は白塗りの庭付の借家だ。なかなかいい暮らしをしているのかもしれない。
呼び鈴を鳴らす。一度で加藤さんが出てくる。あらかじめ時間は伝えておいたからだ。僕らの姿を認めた後、彼女は親を呼びに行った。程なくして彼女の母親が現れる。父親はおそらく留守なのだろう。
「こんにちは。檜ヶ谷です。隣が…」
「竹下です。初めまして。」
「いらっしゃい。いつも久美子と仲良くしてくれてありがとう。こちらへどうぞ。」
「お邪魔します。」「失礼します。」僕と竹下は奥のリビングへと入っていく。
「どうぞ座ってください。」
「失礼します。」
一つテーブルを挟み、ソファーに腰掛ける。空気が少し重くなる。テーブルの上にはあらかじめお茶請けが並べられていた。母親がお茶を淹れ、僕らの前に持ってくる。僕と竹下は”ありがとうございます”と小声で言う。そして母親は僕らに対置するソファーに腰掛け、口を開いた。
「泊りがけでキャンプの件だけどね、私は賛成なんだ。久美子さえ良いと言うならね。」
意外な回答があった。拍子抜けしてしまった。
「そうなんですね。」
「でも一つだけ条件があるの。久美子は、知っていると思うけれど声を出せないの。だから目を離さないで欲しい。」
「分かりました。」
「どんな時でもね。」
「もちろんです。」竹下が答えた。
「それで何日くらい泊まるの?」
「2週間くらいですかね。」竹下はそう言った。
聞いていた内容と異なるため、思わず”え?”と僕は声を出した。
「それはさすがにダメね。2週間となると課題とかも終わらなくなるだろうし。」
「そうですか…、ならば3泊4日ではどうですか?」
「分かりました。それならば許しましょう。久美子もそれでいいかしら?」
加藤さんは静かに頷いた。許可は下りた、が
「今回はもう大丈夫ですが、本来このように泊りがけで遊びに行くときは、しかも男子たちとなら、もっと早い段階で連絡してください。」
「はい、すみません…。」
「もっと久美子のことを考えてあげてください。声のことを知っているのなら尚更です。」
「分かりました。」
「だけど、ありがとう。私自身、久美子を色々なところに連れて行ってあげたかったけれど、一人ではなかなか難しくて。だからこのキャンプで久美子のことを楽しませてあげてちょうだい。」
「分かりました。責任もって楽しく遊んできます。」僕がそう答えたら、竹下と母親が笑みをこぼした。
「お願いね。それじゃあ行く日が決まったらまた連絡をちょうだい。」
「はい。」
僕と竹下は玄関を出た。そうして、
「檜ヶ谷、お前面白いな。」と竹下は言った。
「何か変なことを言ったか?」と問うと、
「いや、お前はそれでいい。」と彼は返した。
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