7.
伝えたいことへの出力が異なる僕らはどうしても会話をするのに時差が生じる。
ならいっそのことその時差を利用してやろうじゃないかと思った。
明くる日の放課後、僕は彼女に
「文通をしないかい?毎日、思ったことを綴りあってさ。」と言った。
それからは、僕は1冊の文通用の交換ノートを準備し、時間を見つけては授業中でもその日思ったことを書き合い、次の日に交換した。
翌朝、翌々朝とまた同じく書き合い、交換し、時差のある会話をした。
その時差は僕にとって新鮮なものであったし、彼女と正しく会話ができている気がした。
お互い今日は何をしているのだろうと思いながら過ごす毎日は僕に人としての潤いをもたらしたらしい。
そんな僕に話しかけやすくなったのか、同じ写真部のなかで友人もでき始めた。
思いがけず、彼女の存在は僕にとって良い影響となっている。そう感じた。
来週の月曜日から考査が始まる。彼女と勉強したおかげかいつもよりも僕は余裕があった。直前の金曜日。僕と彼女ともう一人、新しくできた友人と勉強をしていた。名前は竹下という。
「檜ヶ谷、ここの答えを教えてくれ。」
「ああ、それはホメオスタシスだ。」
彼は自然と僕らに馴染んだ。彼女にも気を使えていたし、趣味もある程度共通していた。彼は僕と彼女とのハイブリッドのようなもので、僕には写真撮影の穴場を、彼女には何処何処で見られる景色が綺麗で絶好な写生ポイントがあるなどと教えてくれることが多かった。
午後7時頃に差し掛かった。
「よし、これだけ勉強すれば今回のテストも大丈夫だろう。」と竹下は言った。
「今までどれくらい勉強してたんだ?」
「赤点をとらない程度だよ。」
「よくそのレベルでいいと思って勉強してるな。そろそろ進路も決めなければならないのに。」
「その時はその時に考えるさ。さあ帰ろうか。」
”そうだね、帰ろうか”と席を立ち彼女に声をかけようとすると、もうちょっとだけと言いたげに彼女は僕を見上げた。
「もう少しだけしたら僕も帰るよ。加藤さんは?」僕は念のため彼女に聞いた。
彼女はううんと首を振った。
「そうか、じゃあな。来週もまた勉強しようぜ。」
”ああ”と言い僕は手を振り、彼を見送った。
直後、トントンと机を叩く音がした。加藤さんの方を向くと、例の文通の紙を僕に渡してきた。
紙には、
”今日も一日中暑かったね。特に授業で移動した時なんていつもどおり私の席が教室の真ん中で、風通しが悪くて暑かったよ。
テストももう来週だね。もう数学は大丈夫そう?私と合計点数勝負だからね!
今日、竹下くんと初めて話したけどいい人みたいだったね!仲良くできたらいいな。”
と書いてあった。僕もひとしきり読んだあと”そうだね”と言い、彼女に今日書いたそれを渡した。
こうして僕と加藤さんとの間で少し変わった文通が始まった。
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