6. 

週明けの月曜日。いつも通りの日常を終え、放課後を迎えた。

僕がまた先週と同じ席を借りて座っていると、彼女がやってきた。

友人を連れて来ている様子はない。

僕が気付いて顔を見上げると彼女は会釈をした。


「お疲れ様。じゃあ先週話したとおり、今日は数学の勉強をしようか。」

彼女は頷き、僕の横にある席を僕の机へくっつけてきた。

下手をしたら肩が触れ合うような距離で僕たちは勉強をしている。

僕は構わないのであるが(もちろん集中力は多少削がれるが)、彼女には抵抗がないのだろうか。

そう思いながら彼女と同じ問題集を解いていると、


”答え合わせをしませんか?”と言いたげな視線を僕に向けてきた。手持ちのノートと一緒に。


「答え合わせしよう。」僕はそう言って自分のノートを差し出した。

彼女はそれを受け取り、同じようにノートを僕に渡した。

答え合わせを始める。


やはり彼女は賢いのだろう。彼女のノートには正解の丸ばかりつけられていく。

グラフの書き方も、線の引き方も綺麗だ。。

当然、正解の多い彼女の採点の方が早く終わる。

僕は彼女がノートに正解を記入してくれている音を聞きながら採点が終わるのを待っていた。


「そんなに丁寧にやらなくても大丈夫だよ。」

僕はそう彼女に声をかけた。彼女はハッとして顔を上げ、僕を照れくさそうに見た。

熱中しやすい性格なのかもしれない。

丸つけを終えたノートを交換し、正誤の内容を確認する。


8割ほど僕のノートは正解をしていた。残りの2割の間違いは彼女の訂正が教えてくれた。


「数学得意なんだね」と言うと、彼女は頷いた。

しばらく勉強会は続いた。


そうして肩と頭が疲れ、伸びをして窓を見ると同じく疲れた自分が窓に映っていた。

時計を見たら午後7時を回っていた。

答え合わせを終えた彼女のノートに僕は”帰ろうか”と書き加えて返した。

それを読んだ彼女は頷いた。


その日から僕は必然的に彼女と帰ることとなる。


僕は普段この高校までバスで通学している。彼女は家が近くにあるのだろうか、ここまで徒歩で来ているようだった。バス停までは彼女と帰る方向が一緒なので、僕らはそこまで歩いた。

一緒に歩いて僕は気づいた。何気ない会話の時でも彼女は僕の目を見て頷いたり首を振ったりしてくれることに。僕はそもそも人と目を合わせて話すことが苦手であったし、実際に僕から彼女へ話しかけているのにも関わらず話している時は基本的に下を向きがちだった。そんな時彼女は僕の顔を覗き込んで笑顔を見せてくれた。僕はたじろいでしまっていた。これではまるで僕の方が声を出して話すことができないみたいだった。


バス停に着いた。彼女は僕のバスが来るまで一緒にいてくれた。僕の顔を見て頷いてくれるたび、彼女の上質な髪が揺れた。その日はもう夜が深まっていて、僕は、

「もう夜遅いのに付き合わせてごめんね。」と声をかけた。

その後、「別にいいよ。」と聞こえたのは僕の気のせいだろう。


バスが来た。彼女に”また明日”と告げ、乗車する。

動き出したバスに揺られながら僕は妙なことを思いついた。



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