第二章:東京戦線
7.「山手線外側で暮らす少年少年たち」
*
*
東京、北域基地軍事司令室。
喧騒が飛ぶ広い部屋。最奥の壁一面にはモニターが貼り付けられ、戦地となっている東京北部の地図が映し出されていた。
「ポイント3上の配置、どうなってますか?」
モニターを眺めていた二十歳前半くらいの男が言うと、彼より年上の男が手元の資料を漁る。
「把握不可能。ていうか、配置自体してないと思う、ます。休戦中て通知してたので」
「タメ語でいいですよ、副司令。俺のほうが年下なんで」
「いや、でも階級が……っす」
「俺がいいって言ってるから、大丈夫です。それより、マズいなこの状況は。なにやってんだ、あいつ」
「どうする、
茉理と呼ばれた若い男はモニターを見つめたまま、手元の[通信]ボタンを押した。
彼の胸元には、[学医]と[北域司令長]の二つの名札。
「司令長より、通電機を所有している全ての兵に告ぐ。ポイント2、3、4のライン上にいるやつ、おおよそでいいから縦位置を教えてくれ」
ボタンから手を離して椅子に座ると、[副司令]の名札をつけた隣の男が茉理の顔を覗き込んだ。
「どうなってると思う、います、か?」
「だから、タメ語でいいんで妙な言葉遣いやめてください、副司令」
「悪い……」
「それで、この状況……奇襲だと思いますけど?」
「どうして政府軍が攻めてくるんだよ、休戦中って通知してたろ? うちの無制限が不在のこんな時に……」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。うちの無制限、二十分以内に現場到着する見込みです」
「え? 朝季、田舎から帰ったのか?」
「制服姿笑ってやろうと思ったけど、着替えて……っ」
ジジッと機械音が鳴ってすぐ、茉理は立ち上がって目を閉じた。
次の瞬間、スピーカーからたくさんの声が飛んでくる。
『応答します、司令長。現在、ポイント3縦6の……』
「声聞けば誰かはわかるから、ポイントと縦位置だけ言ってくれ」
茉理の言葉に、次からの通信の内容が変わる。
『ポイント3縦4』
『ポイント2縦––––』
『ポイント4縦2』
『ポイント––––』
『ポイント2縦』
『ポイント3–––』
『ポイント––––』
『ポイント2––』
三十近くある多数の声に耳を傾ける茉理。
音声が途絶えたところで、茉理は目を見開いて顔を上げた。
「たすくがいた」
「え?」
「たすくの声がありました、ポイント4縦2」
手元にある数字キーを七つ押し、茉理は再び通信ボタンを押す。
数字キー七つは個人への通信。茉理が押した番号は、反乱軍の中でもランキング上位の実力を持つ
*
ポイント4縦2地点。
左胸と背中に『GoT』のマークがある黒服を着た兵士たちが数人、散り散りに宙に舞っていた。
彼らを狙って地上から炎柱が放射されるが、当たる気配がない。
「くそっ、動きが読めねぇ」
地上で火炎放射器を持つ男が叫んだ。既存のそれとは異なり燃料タンクのないライフル形、しかし効能は火炎放射器の武器。
着用している白羽織の背中には『S(outh)T(roops)』の文字。
「たすくさん、どうします?」
「撃つしかねーだろ、これ以上侵攻させんな」
火炎放射器の男、たすくは黒兵を睨んだまま声を張り上げる。
再度、武器を生成しようとした時、腕に巻いている通電機から声が聞こえた。
『たすく、状況教えてくれ』
「茉理! やっと個別に連絡してきたな、てめぇ!」
『こっちも混乱してるんだ。それで?』
「あぁ、数は五以下、攻撃してくる素振りはなく飛び回ってる」
『やっぱりそうか……』
「つか休戦中のはずだろ、どうなってんだ?」
『現状把握不可、現場担当とも連絡がつかない』
「冬那か、ルーズだもんな、あいつ。連絡ミスもあり得るな」
『ところでたすく、その現場、お前が抜けても大丈夫か?』
「は?」
なんで、と聞こうとしたところで、通電機が音を立て別の通信が入った。
『すみません、連絡遅れました』
ノイズと共に流れる、抑揚のない女性の声。
「
『ポイント2あたりにいると思います、たぶん』
景子と呼ばれた女性の声に司令室の茉理が反応を返す。
『景子、目印になるものあるか? 店とか交差点名とか、電柱があれば電柱番号でもいい』
『電柱番号?』
「おい、茉理。電柱番号ってなんだよ?」
『一つ一つに番号があるんだよ。旧二十三区内の物は全て把握してる』
「すげーな。化け物じみた記憶力には感心するけど、普通の人間はそんなのわかんねぇわ」
『信号についてる看板でもいいですか? 綺麗に残ってるんですけど』
『交差点名か。構わない、記憶してる』
「すげーな」
『うえ、池……交番まえ』
『上池袋か』
「今のでわかんのかよ、茉理」
『そこのサル、貴方ちょっとうるさいですよ』
「ああっ? 景子てめぇ、それは俺に言ってんのか?」
声を張り上げるたすく。
耳を押さえる茉理の隙を狙って、景子がたすくの言葉に応える。
『貴方しかいないでしょう。人間の言葉も理解できないほど再教育が必要なら、猿山の立派な動物園紹介しましょうか?』
「立派な猿山ってなんだよ!」
『バナナの皮を自動で剥いてくれる山です』
「便利だな、おい。山生きてんのか?」
『飼育員さんの努力の結晶です』
「自動って言わねーよ、それ!』
『そこでバナナのねだり方を学んでくるといいです』
「いらん知識だな! つーか俺、普通に人間だからな?」
『人語が理解できていないのに?』
「お前よりは理解できてるよ!」
通信越しに喧嘩を始めるたすくと景子。
司令室の茉理はため息をつき、会話に割り込む、
『たすく、景子……そろそろ馬鹿な話やめろ。それとたすく、お前、声大きい』
『ほら、貴方の雄叫びが耳障りらしいですよ』
「そうとは言ってねーだろ!」
『逆に景子、もう少し声量上げてくれ』
『サルが黙ればいい話です』
「お前の声がちいせーんだよ!」
『わかった、わかったから……とにかくポイント3に向かってくれ。縦位置は3以下』
『私たちがですか? ポイント3?』
「おい、茉理。ここはどうすんだよ?」
『問題ないなら従ってくれ』
『横暴ですね。ポイント3に行く理由は?』
景子の言葉に、シンと会話が途切れる。
しばらくして、茉理がため息を吐いた。
『さっきの通信、ポイント3上縦3以下が無反応だった。通電機を所有する兵の数も足りない』
『……そこに死体があると?』
「景子てめぇ、言い方考えろよ!」
『まだ死んでると確定したわけじゃない。ポイント3のライン上、おそらく
「あぁー、あの化け物か」
たすくは仲間の白兵に手を振り、その場を離れることを伝えた。
ジェスチャーにより返事が来たことで、くるくると足首を回す。
「俺のほうが近いか?」
『たぶん』
「曖昧な返事すんなよ。司令が行けって言うんだから、俺は従うだけだ」
『正直に言うと、俺も手に余ってる。やばいと思ったら、逃げていいから』
「悪いけど俺は複数を同時に考えれねーんでな、やることは一つだ」
『バナナの皮を剥く、ですか?』
「帰ったら覚えとけよ、景子! ……まぁ、生きて帰れたらな」
地面を蹴ったたすくは、茉理の指定した場所に足を進めた。
*
ポイント3と呼ばれる場所は経度139.73上のこと。
東西の位置を確認する場合、経度を利用する。ポイント1といえば139.71、5といえば139.75のこと。
縦位置というのが、山手線円から見て内か外か。二五〇メートルを一単位とし山手線より内側はマイナスで、外はプラス(無印)で示す。
例えばポイント4縦位置0といえば山手線巣鴨駅周辺のこと。
山手線を基準とする理由はそこが両軍の境界線だから。内側が政府軍の領域、外側が反乱軍の領域。
山手線内にある
戦地東京の領地は、日本国旗が黒白に塗り替えられたような形をしていた。
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