妄想3:天井裏


 私の部屋は2階建て一軒家の2階だ。

 家の周りにはマンションやビルが立ち並ぶので日陰になりやすい。

 そのせいで部屋が暗いのは別に気にしていないのだが、問題は夏の暑さだ。

 いくら太陽を遮られていると言っても夏の容赦ない日差しは正午近くには真上から降り注ぐ。

 そして何より、ビルに囲まれているという事は日中ほぼフル稼働でエアコンを使っているため、家の周りは室外機の熱で蜃気楼が出そうなほど暑い。

 そんな熱を一身に浴びた屋根や壁に囲まれる部屋は夜になっても冷めることは無い。正直寝ていられない。

 風も通らなければ、熱の逃げ場もない私の部屋はまさしくサウナだ。

 

 

 今日は夏休み初日。土曜日。

 特に予定もないので、唯一エアコンのあるリビングで母が家事をする音を聞きながらぼーっとしていた。

 その時ふと良いことを思いついた。

 自分の部屋がどうせサウナのようになっているなら、いっそのこと本当にサウナとして使ってしまおう。

 日頃から運動なんてろくにしていないので、これを機にダイエットとして汗をかきながら映画を見よう。2時間ほど観たらそれなりに痩せるかもしれない。

 冷蔵庫から冷たいペットボトルを1本出して自室へ向かう。

 

 部屋に入ると案の定モワッとした熱気が立ち込めていた。

 水を一口飲んでから棚にあるDVDをパソコンに入れる。

 選んだのは一時期流行った、ビデオカメラで撮ったような映像で話が進む系のホラー映画だ。

 廃墟へ肝試しに行った若者たちが得体の知れない何かに襲われて行方不明になって行き、数年後には廃墟の屋根裏部屋で全員の白骨死体とビデオカメラが見つかって終わった。

 ついつい夢中になって見てしまい、水分補給をしていなかったのでペットボトルの水を一気に飲み干す。

 思惑通り全身から汗をかき、若干のぼせている。

 汗でベタベタなのでシャワーを浴びようとイヤホンを外して立ち上がった時、天井から音がした。

 ガタガタと何かが動いている。

 しかもネズミのような小動物ではなく、ある程度の重さと大きさのある何かが。

 驚きがだんだん恐怖へと変わっていく。私の家には屋根裏部屋なんて特別な部屋はないし、そんな所に入り込めるようなスペースもないはずだ。

 耳をすませなくてもはっきりと聞こえる音。

 全身に嫌な汗をかいてきた。さっきまでとは明らかに違う冷や汗が額を伝う。

 一体何が私の部屋の上で動き回っているのか、確かめたい。しかし怖くてその場から動けない。第一、天井裏などどこから確認出来るのかも分からない。

 今までそんな所から音がすることなど1度もなかったのだから。

 泥棒にしたってこんな昼間の住人がいる家には入らないだろうし、猫やたぬきなら足音が大きすぎる。

 得体の知れない何か。分からないのが怖い。

 疑問と恐怖で頭がいっぱいになり、さっきまで逆上せていたはずなのに手足が冷たくなっていく。

 どうしよう。母に伝えに行こうか。念の為、父にも連絡を入れた方がいいだろうか。

 とりあえずこの部屋から出よう。

 

 トントンッ

「工事の人が部屋の中で作業するって言うから出てらっしゃい」

 ドアのノックと母の声がする。

 訳が分からないままとりあえずドアを開けた。

「暑っ!あんたこんな部屋で何してたのよ!工事の人待ってるんだから早く片付けなさい!」

 母は顔をしかめながら部屋の中を覗いて言った。

 現状が理解出来ていない私に向かって急かすように続ける。

「午前中にあんたの部屋にエアコン付けるって言ってたでしょ!」

 そういえば昨日の夜そんな話をされたのをすっかり忘れていた。

 急いで部屋に散乱していた服などを収納ケースに押し込み、空のペットボトルを持って部屋から出る。

 全身汗くさいので母に着替えの服をお願いして、真っ直ぐ風呂場へ向かった。

 

 風呂から上がると工事の人は既に帰ったあとだった。

 ふと気になって外へ出ると、屋根の上には真新しい室外機が鎮座していた。

 そこから自分の部屋へ伸びる白い管。

 部屋へ戻ると先程のサウナは嘘のように、涼しい空気が部屋に満ちていた。

 

 

 

 たったそれだけ。

 しかしこれだから私はやめられない。

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