第269話 ポルトガルの貿易船との交渉
- 1542年(天文11年)9月 -
- 台湾 台北 -
「若殿。台南の安平城から白い肌に赤毛、碧眼の人間が帆船に乗ってやってきたと連絡があったぞ」
出立準備が終わるのをお茶をしながら待っていた俺と毛利義元くんに司箭院興仙さんがそう告げる。
「へぇ・・・・台湾を目指してやってきたのでしょうか?」
毛利義元くんが興味津々に尋ねる。
「来た目的は、台風で船が小破し流されて来たので、船の修理と食糧と水の補給を望んでいるとか・・・まぁ三隻ほどで艦隊を編成しているので台風で破損云々は口実っぽいですな」
司箭院興仙さんは顎髭をさすりながら答える。
「この島の住人が貿易相手となるか、侵略対象となるか見極めに来たのではないでしょうか?」
俺は指摘する。そう。もし台湾に良質な港があることを知れば、欧州人は中国大陸への足掛かりとするべく台湾を攻撃し占領する可能性が高くなる。もし向こうが攻撃を仕掛けてきた場合は、手痛い反撃を受けると知らしめる必要がある。
「なら適正価格での取引を申し入れて様子見。それで相手が威圧したり武力行使をしてくるなら目にモノを見せてやりましょう。宜しいですね?先生、師匠」
毛利義元くんが俺と司箭院興仙さんを見るのでふたりで頷いてみせる。それでいい。新型戦艦がいる以上、戦力的にはこちらが上である。向こうが先に手を出し撃退したとなれば交渉はこちらが有利になるからね。
- 台湾 台南 -
「ふむ。建物の様式は明のものだけど、港にいる人間の服装や言語には明との共通点はほぼないと・・・」
ポルトガルの商船の船長であるディエゴ・デ・フレイタスは部下から上がってきた報告書に思案顔になる。
現地の言語というのは、基本的には支配者の使う言葉が主流になる。権力者側との意志の円滑な疎通を図るために必要なことだからだ。
「明とは違う勢力か?」
複数の国を股に掛け貿易活動をしてきたディエゴ・デ・フレイタスは直感的にそう判断する。
「船長。
「判った・・・」
ディエゴ・デ・フレイタスは部下からの報告書を鍵付きの引き出しに仕舞い込むと、
「ムイトゥ・プラゼール」
部屋の奥から現れた白人男性に向かって、俺はポルトガル語で挨拶してみると、男性とその隣りにいた明の学者風の服を着た男性が大きく目を開く。挨拶を間違っただろうか?
「おお、初めまして。ポルトガルの貿易商でディエゴ・デ・フレイタスと申します。もしかしてあなたは、我が国の言葉がお分かりに?」
「えぇ。日常的な会話なら大丈夫です」
目の前の男の言葉をタブレットの翻訳ソフトがスムーズに翻訳してくれる。神のアプリなせいか、言ってることも言いたい事もタブレットを操作する事なくリアルタイムで耳に入ってくるので、片言な感じになるけどポルトガル語で返せるのだ。まあ、最初の頃は中国人を介して筆談による話し合いだったから、意志疎通は格段にアップするだろう。
「ではこのまま交渉をしても?」
ディエゴ・デ・フレイタスが期待した目でこちらを見てくる。
「もちろん」
俺がそう言うと、ディエゴ・デ・フレイタスはニッコリと笑い、それから交渉が始まる。
まずは使用されるのはポルトガルの金貸や銀貨。ただし貨幣としてではなく含有されている金や銀の重さによる取り引き。比較に使われた銀塊と金塊の純度が高いのには驚かれた。
次にポルトガル船が積み込んでいた貿易品のうちサファイアやルビー、ダイヤモンドといった宝石類。スイカ、トウモロコシ、カボチャなどを購入。
一方のポルトガルは日本の生糸や絹織物。螺鈿細工や漆器。白磁や刃剣とかを買い求めてきた。まぁ史実でも、明が鎖国政策を推し進めた結果として明の磁器が輸入出来なくなり、その代わりとして日本の磁器が購入され欧州に広がった経緯があるから、これらを売るのは問題はないだろう。
船の修理が出来る大工の手配も行ったけど、修理はあっという間に終わったよ。
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