第268話 台湾に毛利義元くんを迎えに行く

- 1542年(天文11年)9月 -


- 台湾 台北 -


「ようこそ畝方殿」


 台湾の北の港で、健康的に日に焼けた少年、毛利義元くんが数人の護衛と共に出迎えてくれた。


「ほう。これが新型戦艦の「安芸」ですか・・・まさに黒金の城ですね」


 眩しそうに毛利義元くんは、俺の背後の黒い船を見上げる。

 鋼鉄製の新型戦艦「安芸」は蒸気動力船だが、初期の蒸気船の特徴である外輪はないし、速度を補助するための帆もない。

 これは最初からスクリュープロペラが採用されているから。あと動力であるエンジンは発生した蒸気を羽根車に当てて回す水蒸気タービン方式なので、今の規定からいうと実は蒸気船ではないのだがそこは無視していいだろ。

 艦の全長は約45メートル。全幅は約15メートル。高さは約6メートル。水蒸気を動力とする回転式の床に設置されたニ連装14センチ砲が前方に二門と後方に一門。遠方を監視するための艦橋が船体の三分の二にありその後方に蒸気機関を動かすために燃やす石炭の煙を排出するための煙突が2基。他の艦に命令を伝達するための旗を掲げるマストがある。なるほど黒金の城と評されても頷ける艦影である。


「お屋形・・・いえ上様からの手紙がございます」


 元就さまの呼称は鎮西大将軍就任で上様に変わった。なお、公方とか大樹という呼び方は、足利天晴さんに配慮する形で使われてはいない。


「手紙は城で受け取りますよ。自分の個人的には畝方先生ですが、形式は整えないといけませんから」


 毛利義元くんは柔らかに笑う。まあ、急ぐ案件じゃないからいいか・・・


 台湾での毛利氏の北の拠点は、史実でいうところの、清時代に台北の淡水河沿いに建設された台北府城の場所にある。

 街を城壁で囲い込み、壁の一角には更に石や干乾しレンガを積み上げた楼閣の上に木造の家屋を建てた見た目は中華風の城である。日本風の城にしなかったのは、外見を見たとき台湾が中国の一部だと誤解させておいた方がいいという判断からだ。なにしろ既に欧州人と中国とは少なからず交流があり、建物の様式で異なる文化圏の存在が察知されないようするためだ。まあ、交渉の席に着いたら速攻でバレるだろうけどね。


「親父・・・上様は、それがしに模擬戦での指揮を執れと?」


 俺から差し出された手紙に目を通しながら毛利義元くんはつぶやく。


「日の本での戦は既にすべて終結し、恐らく当分は起きません。ですから、若殿の御披露目とこれからの武の方針を示す必要があります」


「それが此度の軍事演習と戦艦の御披露目ということですか?」


 毛利義元くんの問に小さく頷いて見せる。

 ちなみに軍事演習と模擬戦の話し合いは順調に進んでいる。まず川中島で双方一万人参加の模擬戦をして、その後鉄砲隊による演習。そして新型戦艦「安芸」の正式な御披露目が決まった。戦艦は、江戸湾(史実とは違い既に江戸城前湾・・・略して江戸湾の名称で呼ばれている)で旧式となる艦を標的とした艦砲射撃訓練の実施である。

 これは、仮に模擬戦で武田氏が勝ったとしても続く演習や御披露目で武田氏の心をへし折るためだ。


 模擬戦についてもルールとかを決められている。

 使える武器は木刀、穂先と鏃が朱墨の入った筒になっている槍と弓。当たると破裂して朱墨を撒き散らす焙烙球。防具は鉢金と鎧の上に羽織り。

 頭の鉢金を奪われたり、羽織りの三分の一を朱墨で染めた場合は死亡と判定して戦場からは離脱することになっている。

 最終的に大将が討ち取られたり本陣の旗指物を奪われた方が負け。

 模擬戦後に、相手から奪った鉢金の種類と数で褒美が出るという仕組みである。なお羽織りの汚れのみで脱落した者の報奨は弓隊の者に均等で分けられることになっている。なお、手柄が立てられない場合でも生き残れば報奨は出ることになっている。

 模擬戦を定期的に行うことで、争いは無くなるけど武術は鍛える必要はあるようにする予定だ。

 なお、現在のところ模擬戦の総大将は、毛利氏が毛利義元くんで武田氏が武田晴信くんである。

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