第219話 花倉の小話的なあれこれ

 その壱


 話は少し遡る。

 今川彦五郎くんが二俣城で斯波義統を包囲し、今川氏虎の蜂起を無視したという報告が上がって来た次の日。つまり戦略研究会に申し渡した「今川彦五郎くん救出計画」の回答を締め切ると言ったその日。


「今川氏虎が武田と通じているという流言をもって、公家に問題解決の助力を嘆願するのはどうでしょう」


 戦略研究会の所属員が・・・確か矢滝山愛宕司箭院せんもんきょういくきかん出身の蒔井十郎しいじゅうろうが手を挙げて発言する。


「逃げ出す事態そのものを封じる策か・・・40点だ」


「何故でしょう?」


 蒔井十郎はこてんと首を傾げる。


「俺も官僚の人に怒ら・・・いや指摘されたのだが、安易に公家の力を借りると見返りが大変なことになる。今回は時間との戦いだからな。足元を見られ、かなり毟られる」


「だとすると、それなりに点があるようですが?」


 蒔井十郎がそう指摘する。


「時間が十分にあれば、問題解決の為に懇意にしている公家を動かすのは悪手じゃない」


 京に目を向けない田舎大名ならまだしも、既に幕府自体は滅んだとはいえ、「室町殿の子孫が絶えなば吉良に継がせよ、吉良も絶えなば今川に継がせよ」と後の甲陽軍鑑にさえ書かれている一族だ。実力行使に二の足を踏ませることぐらいできるだろう。あと、公家の人って、適度に頼らないと拗ねる人が多い。

 扇で口元を隠し、ジト目で「その程度の事、何故麿を頼らなかったのでおじゃるか?」とか言って、後々メンドクサイことになることがあるのだ。


「はい。今川彦五郎殿と太原和尚は自力で京に来てもらい、そこで毛利が保護すべきです」


 また一人、所属員が、確か間貫佳太まぬきけいたが手を挙げて発言する。


「毛利との接点をなるべく減らせとは言ったけど、完全に減らしてどうする。5点」


「点はあるんですね・・・」


 蒔井十郎が恐る恐る聞いてくる。


「今川彦五郎殿と太原和尚が自力で京に向かっているというのは、そう噂をばら撒くだけで策として使えるから」


 そう。今川彦五郎くんは先々代と正室との嫡子だ。庶子である今川氏虎は、自らの正当性を主張するために彼の身柄を生死を問わず金にも糸目もつけず必ず押さえる必要がある。太原崇孚さんは僧で今川彦五郎は元僧だから、駿河(静岡中部から北東部)から逃れる二人の僧というのは、追手を引き付ける囮としてはかなり使える。


「しかし、街道や関所を使うと逆に疑われて追跡されないのでは?」


 間貫佳太が尋ね返してくる。


「偽の情報であっても完全に否定されない限り無視することはできないからな」


 間貫佳太よ。噂をばら撒くと言ってれば点はもっと高かったぞ。


 その弐


「そういえば、今回の今川での叛乱劇は乱なのでしょうか?変なのでしょうか?」


 戸次鑑近くんが首を捻る。

 基本的に「変」というのは政権内部での抗争で、「乱」は政権外部との抗争・・・ということらしい。史実だと、次期当主に決まった今川義元に対し不満を持った家臣の福島正成が部外者である玄広恵探を立てて起こした抗争すなわち「乱」である。

 だけどこの世界で起きた叛乱は、当主の座を巡って還俗した今川氏虎庶子今川元親直系による政権内部での抗争なので「変」だと言えなくもない。

 当初、伊豆(静岡伊豆半島)や相模(神奈川の大部分)の新参者が一発逆転を狙って今川氏虎についたと思っていたけど、実は今川氏虎の母が北条早雲が伊豆盗りするときに合力した国人衆のひとり福島氏の出身で、彼らが今川氏虎を支援するのにも、それなりの理由があったというのは正直驚いた。


「今のところは「変」でいいでしょう。かの御仁が兵を興した花倉の地を取って「花倉の変」としますか」


 毛利の私史・・・少なくとも陰で俺のお言葉集を作っている面々には「花倉の変」と記録されるだろう。


 その参


 今川元親くんが俺を烏帽子親に元服し官位を授与されたというニュースは瞬く間に東海地方を駆けて武蔵(東京、埼玉、神奈川の一部)の武田信虎さんまで届いた。というか御伽衆を総動員してばら撒いたんだけどね。

 ちなみに今川元親くんは京に来た時と同じように船に乗って遠江(静岡大井川以西)に帰っていった。このときに使った船は、今川元親くんが駿河(静岡中部から北東部)から脱出するときに使用する予定だった船だ。

 船は商船に偽装した揚陸艦で、仮に遠浅の海岸であっても十数人の兵士を沖から浜、浜から沖へと輸送することは造作もないんだよね。なので、今川氏虎に攻められて逃げ場所がなければ影武者を北と西に放って自身は南に海に逃げろとアドバイスしたんだよ。

 研究員からは、課題を出すときにそれを言って下さいと文句を言われたけど、何を使ってもいいのかと聞かない方が悪いと断言し、そのことを理由に説教したよ。


その四


「花倉の変」とタイトルが書かれた冊子に俺の花押を書き込むと、山のように積みあがった冊子の下書きの束をガチャ箱に突っ込んでいく。


「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 怪しいリズムを口ずさみながらはガチャ箱のボタンを押す。


 がしゃん。ぽん。

 

 UR 戦闘拳銃カンプフピストーレ(弾×5)


 ええっと・・・なんじゃこりゃ?

 いや、好きな拳銃だし、アルミニウムの採掘を始めたのは照明弾を造る為の下準備だったけど、ええっ~

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