第182話 近江国人を切り崩す
伊勢神宮の起請文には細川晴元の策の情報が偽りではない事、北畠氏が細川晴元の策に関与してないことを天地神明に誓うものだった。いいのかな?ウチは神さまに誓う系は厳しいよ?なお、元就さまのもとにも細川晴元の手紙の写しと起請文は届けられている。届けたのは北畠晴具さんと神戸具盛さんの義兄弟である木造具康さん。なんでも木造具康さんのほうが神戸具盛さんよりちょっと官位が上だから。要らん情報かな。
「では頼むよ」
止まり木に止まるガチャで出た小型の猛禽類ノズリの「ひかり」の左足にある翠色の識別環についている鉄管に「摂津(兵庫南東部から大阪北中部)に戻るべきか」という手紙を封入する。
「ぴぃ」と小さく鳴くと「ひかり」は大空へと羽ばたく。このようにガチャで出た動物シリーズのなかには、帰巣本能に関係なく目的地に行って帰るといった芸当をこなしてくれる個体が数体いて、緊急時の連絡に活躍して貰っているのだ。
「首領。御屋形様より超特急便にて文が」
百地正蔵さんがゴツイ籠手に一羽のノズリを乗せてやって来る。左足に蒼い識別環を嵌めているということは松が飼ってる「こだま」だな。
「こだま」はふわりとこちらに飛んできて俺の籠手ではなく肩に痛い痛い。肩が無茶苦茶痛い!
「たった今「ひかり」を出したばかりなのだが・・・」
肩の痛みをこらえつつ「こだま」の識別環に付いている鉄管を外して封を解くと、「こだま」は「ひかり」の止まっていた止まり木へと移動する。鉄管に入っていた紙を取り出し広げると「南は居残り組に任せろ」と書かれている。どうやら対六角戦は俺が関わらなくても良いらしい。
「想定外想定の対六角戦の警戒度を1に下げてください。あと、朽木民部少輔に中立であることを再度確認するための文を出します。その際、領内の調査をお願いします」
「御意」
百地正蔵さんが深く頭を下げて姿を消す。なお朽木民部少輔というのは朽木稙綱さんのことで、長く足利幕府に忠義を尽くした朽木氏の現当主。当然だけど細川晴元とも旧知の仲だ。俺は懐から小箱を取り出し超特急便の返事である「了」の文字が書かれた紙を取り出し鉄管に封じると「こだま」の識別環に取りつける。
「では頼むよ」
「こだま」は「びぃ」と小さく鳴くと大空へと羽ばたいていった。
1535年(天文4年)8月下旬
- 北近江(滋賀北半分)蓮華寺 -
文を出した成果か、朽木稙綱さんが嫡男である朽木貞綱くんを使者に送って来た。なお朽木稙綱さんは足利義晴さんを通じて元就さまのところに出向いているらしい。
「朽木民部少輔稙綱が嫡男で朽木弥五郎貞綱と申します。我らは細川六郎ではなく公方さまにお仕えする者であります」
俺が入室して上座に座ると、待っていた朽木貞綱くんが挨拶もそこそこに土下座じゃないかというぐらい低く頭を下げる。そういえば細川晴元は足利義晴さんと絶縁状態になったあとは足利義晴さんから貰った偏諱の晴の字を使うのを嫌って細川六郎を名乗っているんだっけ。
「確かに朽木には我らを後ろから襲わないという言質が欲しかったのですが、替えのきく人の言葉の何をもって信用しろと仰るのですか?」
俺の言葉に朽木貞綱くんは顔色を・・・変えなかった。確か17歳になったぐらいの年のハズだが、長年足利将軍家の側近として支えてきた一族の次期当主というだけあってこの程度では
「言葉が信用できないのであれば起請文を書きましょうか?
「そうですね。では弥五郎殿は暫く我らに付き合ってください」
朽木貞綱くんの顔色がほんの少し変わった・・・ような気がする。
上平寺城への出立は速やかに行われた。まあ、出立直前に朽木貞綱くんが会見を申し込んできたからすぐに出立できたのは当然なんだけどね。
同時に北近江(滋賀北半分)に噂をばら撒く。
曰く、朽木谷の朽木氏が毛利氏に臣従した。
・中立と宣言しただけだ。朽木の嫡男が独断で毛利氏についた。
・朽木氏の嫡男が毛利の支援を得て朽木谷を攻めた。
・毛利氏への臣従を拒んだ朽木氏が一族郎党全て根切にされた。
・朽木氏は毛利氏に対し中立を宣言し、その使者となった朽木氏の嫡男が気に入られ毛利氏の後詰めに帯同した。
・伊勢(三重北中部から愛知、岐阜の一部)の北畠氏が軍を西に動かした。
・若狭(福井南部)に集結した毛利水軍が越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)に向かっていった。
そしてどの噂にも「毛利は京より東、少なくとも近江(滋賀)までは領土を広げる意思があり、敵対する勢力は全て根切にするらしい」と付け加える。近江国人の切り崩しが狙いである。
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