第160話 姫山城の戦い-集結-

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- ☆ -


- 播磨(兵庫南西部) 姫山城前 -


 元就さまの率いる本隊が姫山城前に到着し、姫山城の包囲が完成した。


「ご無沙汰しております。施薬大輔殿。興仙殿」


 大内義興さんの家臣だった内藤興盛さんが俺と司箭院興仙さんに向かって頭をさげる。内藤興盛さんとは豊後(大分南部)で起きた上原館の乱で知己を得ている。


「おお、これは内藤左衛門尉殿。ご無沙汰しております」


 俺と司箭院興仙さんも頭を下げる。


「ご無沙汰しております。大兄先生、興仙師匠」


「「「「ご無沙汰しております。欧仙先生、興仙師匠」」」」


 利発そうなお子さまたちが、内藤興盛さんに続いて一斉に大きな声で頭を下げる。俺のことを大兄先生と呼んだのが、今年13歳になる元就さまの嫡男である毛利少輔太郎くん。欧仙先生と呼んだお供のお子さまは天野米寿丸くん。陶五郎くん。弘中小太郎くん。年は毛利少輔太郎くんより1歳ほど年下である。


 ちなみに俺が先生なのは学問を教える先生で、司箭院興仙さんが師匠なのは武術を教えてくれる師匠だから。毛利少輔太郎くんの大兄は、俺の嫁が元就さまの養女なのと、何かにつけて俺が毛利少輔太郎可愛がって懐かれたのが理由だ。お土産と称し、美味しい食べ物や甘いお菓子で餌付けした結果ともいうけどね。


「いまさらですが、少輔太郎さまの初陣を急ぐ必要があるのでしょうか?」


 内藤興盛さんが尋ねる。


「東に西半分を支配する毛利を相手に合戦を仕掛けてくる勢力があるかどうか・・・」


「ああ、合戦そのものが無くなる可能性がある訳ですね」


 俺の指摘に内藤興盛さんは苦笑いする。まあ、いま毛利氏を相手に抵抗できる勢力があるとすれば現在のところ4つ。まず領土を隣接する越前(岐阜北西部を含む福井嶺北)と加賀(石川南部)を領する朝倉氏。ただ朝倉氏の守り神である朝倉宗滴さんとはそれなりに付き合いがある。

 つぎに商業に力を入れて近代化を推し進めている尾張(愛知西部)の斯波氏。ここも実質尾張を支配している織田信秀さんと商売相手として付き合いがある。

 つぎに駿河 (静岡中部から北東部 (大井川以東))、遠江(静岡大井川以西)、三河(愛知東部)を領する東海一の弓取り今川氏。ここは先代で今は亡き今川氏親さんのときから付き合いがある。何気に付き合いが古いし交流も深い。

 そして甲斐(山梨)、信濃(長野及び岐阜中津川の一部)の東、武蔵(東京、埼玉、神奈川の一部)、上野(群馬)を領する武田氏。最近付き合いを始めた大名家だが同時期に転生してきた旧友がいて、泥かぶれ解決に力を貸している相手だ。

 これら4つの勢力が大連合を組んで毛利氏に対抗すればたぶん何とかなるだろ。ただ先にも言ったけど、これらの勢力の有力者と俺は知らない仲ではない。時間を掛ければこちらに取り込めるだろう。なお、戦国時代後期の綺羅星である越後(新潟本州部分)の長尾氏 (後の上杉氏)や陸奥(福島、宮城、岩手、青森)の伊達氏は武田氏の大躍進の煽りを受けたのか、現在は戦国大名としてスタートダッシュをかけたぐらいで脅威度は高くない。


「それで、大兄先生。我らが指揮するのはどの部隊ですか?」


 毛利少輔太郎くんが目をキラキラさせて聞いてきた。




「「「「「おお・・・」」」」」


 お子さまたちと内藤興盛さんが揃って感嘆の声を上げる。その目の先には荷台に「三国崩し」一門を搭載した多脚ゴーレムがいる。ゴーレムは、連弩を装備している据え置き型のアイアンゴーレム(ヒ〇ドルブ)という特殊固体以外は直接戦闘に参加できない。おそらく戦闘系のスキルを保有していないからだと思う。

 アイアンゴーレム(ヒ〇ドルブ)も戦闘が出来るというよりは標的に対して無慈悲に連弩の引き金を引き続けるだけだ。何より重くてアイテムボックス持ちの俺がいないと運用できない。そしてアイテムボックスの存在もあまり知られていない。


「これは「三国崩し」を陸上で移動させながら運用することができる兵器で自走火砲「灰色熊」といいます」


「我らの任務はこの「灰色熊」の運用と護衛ですね?」


 陶五郎くんが元気な声で発言する。


「護衛の兵を300付けよう。3発も打ち込めば姫山城の赤松は心が折れる」


「なるほどです。攻撃開始の合図としてはどうでしょう?」


 はいはいと弘中小太郎くんが手を上げて発言するので俺は「よく気が付いた」と褒めて頭をガシガシと撫でる。彼は褒めて延びるタイプだ。


「少輔太郎さま。「灰色熊」の指揮権をお渡しいたします」


 毛利少輔太郎くんはこくんと頷くと、俺からゴーレムに色々と指示が出せる緋色の印籠を受け取る。


「「「あるときは仏の味方。あるときは悪鬼の手先。善も悪も印籠次第。敵に渡すな大事な印籠」」」


「盗まれないようにね」


「「「はい!!」」」


 お子さま三人は大きな声で唱和した。


「では内藤左衛門尉殿。引き続き少輔太郎さまたちをよろしくお願いいたします」


「はい。お任せください」


 内藤興盛さんと俺は同時に頭を下げる。それはもう見事にシンクロしていた。

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