第159話 とある弾正さんとの打ち合わせ
「お初にお目にかかります。松永弾正久秀と申します」
松永久秀さんは頭を上げる。「きらーん」という擬音とともに松永久秀さんの八重歯が光ったような気がする。美男子必須スキルのきらーんである。左目の下から頬まで一本の酷い刀傷があるにも拘わらず破壊力が半端ない。
ちなみに弾正というのは自称らしい。史実でも弾正少弼に任命されるのはもっと後だったハズ。で松永久秀さんが俺のところに来たのは、今後の予定の打ち合わせだ。
まず播磨(兵庫南西部)の赤松氏は滅ぼす。先代を討たれた恨みがあったとはいえ、援軍を装って背後から襲うような輩を味方にしなければならないほど、いまの毛利は人材不足じゃない。四国が平定されたので、現在赤松政祐が籠る姫山城を四方から攻めることになった。あ、姫山城というのは後の姫路城のことね。
播磨で抑えておく武将は豊臣秀吉の軍師で有名な黒田官兵衛こと黒田孝高の血縁である黒田重隆・黒田甚四郎親子ぐらいだろうか?
播磨を平定したら元就さまは京で主上や将軍足利義晴さまに謁見した後、主上の即位式まで丹波(兵庫東部から京都西部)亀山城に逗留することになっている。主上の即位式が終れば次は北近江(滋賀北半分)に巣くっている細川晴元を立場的に追いつめて坂本を攻める。
一方で大和(奈良)と紀伊(和歌山から三重南部)は、宗教勢力には交渉で信仰の自由を認める代わりに兵力を取り上げ、毎年一定額の金を毛利から寄進することを条件に荘園を取り上げる。従わなければどうなるか?経済封鎖をして干上がらせるだけである。武家である国人勢力には帰順か討滅を選ばせる予定だ。まあ、紀伊では元紀伊の国人で先ごろ俺に降った雑賀(鈴木)孫一改め平井佐大夫が調略に奔走しているので派手に血が流れることはないだろう。
「三好は弾正殿が御伽衆に孫七郎(康長)殿が軍政に海雲殿が内政に関わることを希望。そして頭領である孫次郎殿が石見(島根西部)の愛宕司箭院学舎に入学もとい人質になるでよろしいでしょうか?」
「はい。それぞれに直属の部下が5人から20人ほど同行しますが、他は希望と適性を見極めたのちに道を決めます」
この辺は事前に三好側に通告していたのでその確認をしただけだ。ちなみに孫次郎くんというのは三好海雲さんの嫡男で、三好海雲さんが出家して暫くして元服した三好長慶くんのことね。
「それで、晴元の書状は役に立ちましたか?」
「それはもう」
松永久秀さんとふたりして悪い顔をする。いま進めているのは延暦寺と管領細川晴元の離間と細川晴元に仏敵の汚名を着せるための作戦だ。作戦というと仰々しいけど、簡単に言うと坂本にいる僧兵たちが細川晴元の文書を盾に勝手に通行税を徴収して商人が困っているから討伐していいかとお伺いをたて、細川晴元から討伐してよいという言質をとるのだ。
文書は俺が用意したニセモノだが、僧兵が細川晴元の名を騙って毛利の御用商人を襲ったことは事実である。そのことを証言してくれる近隣の農民には事欠かないし、噂に至っては百地正蔵さん配下の忍びによって南近江(滋賀南半分)はもとより、美濃(岐阜南部)や尾張(愛知西部)にまで広がっている。
そもそも北近江の坂本一帯は細川晴元の領地ではないのだから通行税を取ってもいいよと許可を出すとか有り得ないから細川晴元には否定することしかできない。
「しかし、花押があれほど簡単に偽造できるとは思いませんでした」
「はは。ガリ版を使えばこの程度は問題ありませんぞ」
「ああ、都で配られたというチラシなるものの技術を応用ですか」
松永久秀さんは納得したように手を叩く。
「あとで技術を供与してください」
「構いませんが、やらかすときには必ず会議にかけてください」
この時代でも、花押を偽装して書状をでっちあげるというのは情報操作の初歩の初歩だ。伊達政宗だったかな?近隣の大名に謀略のお誘いの手紙を出したのが露見したときの言い逃れするのに「手紙に私の花押があるが、偽造防止の穴が空いてないのでニセモノです!」と言い逃れたという話があったりする。まあ、勝手に
「それと、仕掛けた謀は失敗しても必ず報告してください。失敗したときの情報こそ価値があるのです」
「失敗したときの情報こそ価値がある・・・ですか。判りました部下にも徹底させましょう」
「細かい事でも報告し、何が無くても連絡を絶やさず、困れば即座に相談する」
松永久秀さんはうんうんと頷く。
「敵を知り己を知れば百戦危うからずと言いますが、知ったはずの敵の情報に功を焦るばかりに間違っては困るのです。詳しくは」
そこで俺は一旦言葉を切って部屋の隅を見る。
「今日のお言葉は煙蔵の巻18巻に収録予定です」
「うお」
部屋の隅にいきなり姿を現した世鬼煙蔵さんに松永久秀さんが変な声を上げる。ッまあ驚くよね・・・しかし俺のお言葉集、世鬼煙蔵さん編だけでもう18巻になるのか。そっちの方が驚きだよ・・・
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