第158話 断じて猫〇スではありません

1533年(天文2年)7月


- 丹波(兵庫東部から京都西部)亀山城 -


 俺が甲斐(山梨)に出張している間に亀山城は完成していた。通常より早く完成できたのは、城の基礎がコンクリートで夜にこっそり手伝ってくれるゴーレムがいたから。本来なら1578年(天正6年)に明智光秀によって築城されるハズの城なんだけどね。

 それ以上に時代を先取りしたのが、城壁を含む外観を五稜郭っぽいものにしたこと。これは、亀山城の防御兵器として大筒の「三国崩し改」と火縄銃を設置することになったから。火縄銃自体は5年前に九州で行った阿輸迦(アソカ)作戦で実戦投入されていたんだけど、同時期にお披露目された大筒「三国崩し」のインパクトが強過ぎた。

 大砲は1門でも目に見えた形で力をアピールできるけど、火縄銃はそれなりに数を揃えないと力を発揮しないからで、数を揃えるとなると製造する金と資源と職人が必要になる。現時点で過剰戦力である火縄銃に金と資源を投入するぐらいなら、先に領内の農産物に投資した方が良いと、元就さまに進言し受け入れられたのだ。

 まあ、改良するためのデータ取りをするために300丁ほどが生産され、今回の亀山城に拠点防御用として配備されることになったんだけどね。ちなみに火薬の原料のひとつである硝石の生産は今年で16年目。備蓄はかなり進んでいる。



「何が出るかな、何が出るかな、ちゃらぁららら、ららららぁ、ぽちっとな」


 司箭院興仙さんが切れのある謎の踊りを踊りながらガチャのボタンを押す。久々なので踊りの切れが半端ではない。


 がしゃん。ぽん。


<<モノが部屋に収納できませんアイテムボックスに転送します>>

 え?何だ今の天の声は。


「うん?何も出ないぞ。ハズレか?」


 司箭院興仙さんの顔がしょぼんとなる


「いえ。デカすぎて即座に収納されたようです。倉庫で出しましょう」


「おう」


 ふたりして倉庫に向かう。亀山城は、現状では毛利領を守る最東端にる城なので武器や兵糧を備蓄するための大きな倉がある。いまはほとんど空だけど。


「では出しますね」


 俺はアイテムボックスからガチャ品を取り出す。


 SSR 多脚ゴーレム


 多脚の名前どおり六対十二脚の足がある。全体の見た感じは中型トラック。いや、前脚が大きく残りの脚が短いのでタイヤとキャタピラの半装軌車ハーフトラックっぽいな。あと運転席があるところにタヌキの顔があって車体後部にはぶっとい尻尾がついている。全体的な見た目は茶釜のところに荷台がある分福茶釜のデコレーショントラックといった感じだろうか。


「けったいな茶釜狸じゃのぉ」


「はは、動くんですけどね」


 司箭院興仙さんの目がキラリと光る。仕方ないな・・・俺はゴーレムに命じてぐるぐると歩いてもらう。その姿は猫〇スを見つめる某幼女である。


「うむむこれは面妖な」


 面妖という割に司箭院興仙さんの目はキラキラだ。ちなみにゴーレムは、道路の整地に従事している石のクマゴーレムとアイアンゴーレム(ヒ〇ドルブ)という変わり種以外に20体ほどが出ていて農耕に鉱山採掘に建築に活躍している。

 なお、どんなに工夫してもゴーレムは最初から連弩を装備している据え置き型のアイアンゴーレム(ヒ〇ドルブ)以外は直接戦闘に参加させることはできなかった。まあ、軍事物資を輸送することはできるからいいんだけどね・・・


「首領。いま、よろしいでしょうか?」


 茶釜トラックを眺めていた俺に対し不意に声がする。この声は百地正蔵さんかな。


「正蔵か?どうした」


 声をかけると百地正蔵さんがすっと姿を現す。


「讃岐(香川)、阿波(徳島)の制圧が完了しました。そのまま播磨(兵庫南西部)で御屋形様と合流する予定です」


「つぎに海雲三好元長殿の紹介状を携えた松永弾正という男が首領に面会を求めております」


 ・・・松永弾正こと松永久秀。将軍を暗殺したり東大寺を焼いたり主家を乗っ取ったり謀反を繰り返したりと、戦国稀代の悪党とか梟雄と呼ばれる漢。また、茶人であり自決する際に愛用の平蜘蛛という茶釜に火薬を詰めて爆死(実は後世の創作らしい)したとか、同じ虫を三年も飼育して規則正しい生活の大切さを啓蒙した健康オタクだとか性生活の指南書を執筆した伝道者でもある。

 まあ、無能が大嫌いな織田信長が、本人を悪党認定しながら二度の裏切りに一度目は許し、二度目も茶釜で許してやろうと持ち掛けるぐらいには凄く有能な漢でもある。


「出現がほぼ史実通りというのは面白いというか・・・」


「なんでしょうか?」


「いや、すぐに会おう。松永殿を案内してくれ」


「御意」


 小さく頭を下げ、意味ありげに視線を動かした百地正蔵さんがすっと姿を姿を消す。視線誘導ミスディレクションによる消失か!

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